このところ浅い眠りが続いているせいか、目が覚めてからも夢の内容をはっきり覚えていることが多い。断片的な映像が頭に焼き付いている。ピンクとグレーの空と、大きな山。静かな湖もある。背景は瞬時に変わっていき、また違う映像へ。
目が開き切らないうちは現実との境目がないように思えるのだが、起き上がって活動しはじめながらもう一度内容を思い出すと、やっぱり異様な夢だったと考え直す。
晴れた日が続く近頃だったが、今日は珍しく曇り空。友人から−Cloudy Thursday Beautiful Gray.とメールが届く。たしかに、久しぶりの灰色の日は美しく、心地良い。だいぶ寒いけれど、マフラーをしてコーヒーの入ったマグカップを持ち、窓辺に座る。アパート共用の広いベランダの目の前にある桜の木の枝には、カラスが静かにとまっている。このあたりに棲んでいるカラスは、おそらく私のことを認識していると思われる。たまにものすごい至近距離に姿を現すのだが、鳴かれもしないし、威嚇もしてこないので、挨拶と受け取っている。とはいえ、あの嘴はやはり怖い。桜の枝の黒さと同化しそうな色の塊を眺めながらコーヒーを飲んでいると、今度は白黒のまるい猫がやってきた。餌をねだりにきたわけでもなく、距離をおいてこちらをじっと見つめてくる。気にせず(しないふりをして)コーヒーを飲んでいると、猫もベランダの柵の向こうに視線を移し、やがてスフィンクスのような姿勢になった。何を見ているのだろう。何かに思いを馳せているようにも思える。今、この場所で一人と一匹が同じ方を向いてぼんやりしていることが何となくおかしかったので、わたしももうしばらく分厚い雲の流れや、カラスを観察することにした。思いがけなくのんびりした午前になってしまった。何分経ったかはわからないが、猫がむくっと動き出したときには、手の中にあるマグカップはすっかり冷たくなっていた。灰色の一日がようやく始まる。