最後に焚き火をしたのはいつだったか。暗闇のなかでおどる炎を見ながら、まったく思い出せない自分に驚く。焚き木の燃える匂いだけは、ちゃんと覚えている。
落ち葉に覆われた平らな地面と川、林。友人と訪れたのはそんなキャンプ場だった。標高が高いので張り切って防寒着を準備してきたのだが、予想外に暖かかったので、やはり今年は暖冬なのかもしれないと心配してしまう。
タープやテント、火起こしに夢中になっているうちに、時間はあっという間に過ぎる。折りたたみ椅子に座り、ほっとして周りを見回すと、思っていたよりも夜は深まっていた。新月の空に星が瞬く。秋の星座がくっきりと見えるのがうれしい。
火を絶やさないように、落ちている細い枝を折って、燃料にしていく。
臆病者の私は、林の奥の闇が恐ろしく、なるべく火の近くで焚き木を拾う。しょっちゅう星を見に行って歩き慣れていても、暗闇そのものには慣れない。ふだんは思い出さない鵺などの妖怪が頭に浮かんでしまい、余計に怯える羽目になる。
火という大きな明かりが、冷気だけではなく、得体のしれない鳴き声や気配から守ってくれているような気がした。まるで魔除けのようだ。圧倒的な強さを感じるからこそ、数々の神話や儀式、祭りに登場するのだろう。
友人と私は、一言二言話しては、しばらく無言で炎のゆらめきを見つめ続けた。パチパチと音を立てながら舞い上がる火の粉が、星のように見える。
一定ではない不規則なリズムに、心底安心するのだった。