移ろい、たどり着く

璃葉

蒸し暑い雨の季節から猛暑の季節へ移り変わり、それもまた終わろうとしている。
昼間の蝉の声は夜になると嘘のように静まり、代わりに鈴虫やこおろぎが鳴いていて、部屋に響いてくる音がやさしい。涼しくなった夜に遊歩道を歩けば、漂うように吹く風はもはや秋の匂いだった。こうして少しずつ暑さが収まっていって、次の季節がちらりと顔を見せるときの空気が好きだ。相変わらずの引きこもり生活なので貴重なものとして、マスクをはずし、その空気を存分に吸い込む。

昼時のがらんとした電車を乗り継いで、ちがう街へと向かう。最近は一車両のどこかの窓が必ず開いていて嬉しい。外からの風が冷房の風とちょうどよく混ざり合って、通り抜けていく。

久しぶりに遊びに行った友人の家で、何をするでもなく、噂話や美味しい飲み屋、酒のことで会話が弾んだ。
言葉遊びになったり、あまりの適当さによって、あさっての方向に会話が進んだり、コーヒーやお茶を飲んだり、彼女が仕事でPCに向かっているうちに自分はソファでうたた寝しては、目が覚めた瞬間また話しはじめたり。

綻んだ時間のなか、とてつもなく軽くてどうでもいい話から流れ流れて、ZINEを一緒につくろうか、という話になった。
どんな内容にしようか、こんな体裁はどうか、と次々浮かぶ案を、話しながら、時にはげらげら笑いながら遊び半分にノートに書き留める。彼女は文章、私は絵を担当することになった。デザインはもう一人のともだちがよろこんで協力してくれるという。

話に夢中になっているうちに、明澄な空が少しずつ陰って、紫がかった夕空は夜へ移っていった。
追うように青暗くなっていく部屋の中で、遊びの創作についていつまででも話していられる気がした。たどって、着地するところを想像しながら。