蕎麦

璃葉

今まで、蕎麦というものがあまり好きではなかった。好きではないというか、あまり興味がなかったと言うべきか。美味しい蕎麦屋で食べたことは何回かあるし、誘われれば行く。ただ自分から積極的に食べることは一切なく、あー今日は蕎麦食べたいなあー!という日は1日たりとてなかった。…そんな私が、近ごろ蕎麦ばかり茹でている。

それは先日、ブラジルの血が流れているKの家に遊びに行ったときのことだった。職場仲間でもある彼とは何回か飲んでいるし、家に遊びに行くのは2回目だ。友人Bも加わり、貧困(苦笑)のわたしたちのためにKが簡単なご飯を作ってくれるということになった。ちなみにKはシェフである。彼は先月1ヶ月ほどブラジルに帰省していたので、その話も聞きたかったということもあって、のんびり家で晩御飯を食べようとなったのだった。
K宅に着いて、べらべらしゃべっているうちに、彼は大量の蕎麦を茹で始めた。大皿に山盛りの冷やし蕎麦(氷の塊が2つ埋まっている)、その隣に大量のキュウリの輪切りが盛られ、テーブルにどんと置かれる。小口切りのネギもわさっと乗っかって。めんつゆとポン酢を合わせた蕎麦つゆは、寿司屋で出されるようなでかい湯呑みに入って出てきた。ええー、なんか非常にワイルドだけど、すごく美味しそうだ。これは日本では絶対に見ない盛り付けであるが、正直、蕎麦がこんなに美味しそうに見えたことなんてなかった。良い意味で雑な感じが食欲をそそるのだろうか。カルディで買った安い赤ワインと一緒に、ずるずる食べる。ここ最近夏バテ気味で食欲がなかったのが嘘のようだ。冷えたきゅうりも美味しいし、もう夢中である。Kのブラジル話を聞きながら、箸がとまらない。彼は気さくで自由奔放でかわゆく、男女問わずモテるので、恋愛の話はとくに面白い。素敵なエピソードを聞かせてもらいながら、Bと私の箸を持つ手はやはりとまらなかった。

食べ物の好き嫌いは、印象で好みが変わることがあるのだなと実感する。みんなでげらげら笑いながらつついて食べたことによって愉快で楽しいイメージがついたし、酸っぱいものが好きな私には、Kの合わせた蕎麦つゆがとてもマッチしたのだ。

さて、単純な私は次の日、自宅で蕎麦を茹でた。きゅうりの輪切りも添えて、蕎麦つゆも昨夜の通りにやってみた。やっぱりとても美味しくて、結局週に3回ほど食べるぐらいにハマってしまったのである。後日Kにそれを伝えると、かわゆくキャッと喜んでいたので、それもまた嬉しい。