むもーままめ(21)太陽のせいだ、の巻

工藤あかね

じゃがいもを放っておいたら芽が出たので土に埋めて毎日水をやったら立派に実がなって嬉しかったから今日買ってきたアボカドの種は土に埋めてお水をあげてみようと思う毎日話しかけていたら植物がいつか言葉を返してくれるのではないかと期待しているけれどかれらは身振りが言葉だから嬉しい時は葉っぱをぐっと両手いっぱいに広げているからそれでよしとしよう昔一緒に暮らしていて溺愛していた猫のむすめにわたしは千以上の名前をつけて毎日違うバリエーションで彼女を呼んだが悲しかったのは彼女が一度も私の名を呼んでくれなかったこといやそんなことはない猫の口がそうなっていないだけで彼女はあのかわいい声で精一杯わたしの名を呼び続けてくれたのかもしれないと思ったら急に申し訳なくなってかわいいかわいいあの子の小さな骨壷をさすったああわたし少し心が弱っているのかないやちがう心が弱っているのではなくてただ暑いだけだ彼女に申し訳ないと思うのはむしろたくさん呼び名をつけすぎてしまったから最後の瞬間に私が彼女の名前を呼んでいることを彼女がわかってくれていたかどうかやはり太陽のせいだ太陽が私の正常な判断力を殺菌してしまっている海のかわりにぬるいお風呂に浸かってクラゲのことでも考えたり日焼けを心配したりしてみようか山へ行くかわりにベランダに出て植物たちに雨を降らせて雨宿りしてみようかかき氷をひさしぶりに食べてみようかと思ったけれど氷は水じゃないかと思ったら急に執着がなくなったから冷静にかき氷を口に運ぶことができてちょうどよかった水を凍らせてもう一度削って味をつけてなんという手間をかけているのかこの手間がなければ石清水を飲むのが最高だったけれど軟弱な気分では蛇が浮いていたかもしれない水はちょっと昆虫に好かれるかもしれないから山に登るのもなかなか勇気がいるそんなわたしでも一人で奥多摩に迷い込んでタウンシューズのまま断崖絶壁を渡りきったし熊出没注意の看板を横目に日が暮れていつ増水するかもしれない川の勢いを目の当たりにしながらやっぱり私生きていると思ったのはなんでだろうときどき自然の脅威を感じて孤独を味わうのは生命力のテコ入れに必要なんだなと思ったこんなことを冷房の効いた部屋でつらつら思い出しているのはスケールが小さいからすくなくとも外に飛び出して地面に寝っ転がって目玉焼きみたいにじりじりと太陽に灼かれてみたい