真昼の強い日差しが暖かい色味に変わりゆき、夕雲のあいだから透き通った空が見える。家々の壁に伸びる淡いピンクの光が、しっとりした青い空気と風に混ざり合い、薄むらさきの世界になってゆく。雨の時期は終わったのだろうか。
晴れた日が続くようになってからよく話題にのぼるのは、やはり火星のこと。現在地球に接近中の火星は、ほかの星よりも明るく輝くから見つけやすいよといわれて、「ほう」と思いながらも、きっと夕暮れや明け方に現れる金星ぐらいの明るさなのだろうな、とぼんやり想像していた。が、とんでもない。
電車も終わる時間、一本道を歩いていると、まるい月のそばに強烈に輝く火星を見つける。星のことに興味がなくても、あれは何だろう?と思うのではないだろうか。まるで空の向こう側から何か合図をするためにライトを当てているような、奇妙な赤さが心にかかる。風がざわざわと吹くなかで、ルビーみたいな赤い惑星をしばらく眺めた。
地球にもっとも近くなる7月31日にはどんな輝きを見せてくれるのだろう。日に日に明るくなっていく火星を見ることが、始まったばかりの夏の楽しみなのだった。