155立詩(3)最後に語る昔話

藤井貞和

あったてんがない、とんと昔があってなあ、
にわ(土間)で一本の穂を拾ったと。
あいつはそいつを、鍋ん下、がいがいがい、
小豆とともに炊いて、大きなぼたもちさ、
作ったと。 まだ地面の流れて固まらず、
じんるいは生まれてなかったが、
かみくらを、かみくらを満たさねばならぬ。
いっぱいにして待たねばならぬ。
ほんの少しのま、ことばをつなぐしごとを、
土間の神の語らす。 それでこっぽり。
もう滅亡のときなのかよ、待って。

(「最初に語る昔話」というのが昔話集にはあります。)