167物語するブハーリン

藤井貞和

――「だからこそ我々は美をより美しく、
しかもより普遍的にするための活動をしなくてはならない」。
あなたがそう書いたのはW高等学院時代である。
広い校庭にあつまり、ぼくらは十年後の物語探求会をめざして、
KMとともにあることを確認する。 しかし、
KDもまた亡くなる。 大学四年生たちの青春でした、
――「うなじ屈するゆえの反抗」(KD)と。
次ページに、アナキズムのOMが、〈プロレタリア独裁と連合主義〉を書いている。
ぼくらはどこへゆこうとしていたか。 連合主義の、
黒旗に青く刷られた敗北。(黒地なので読めなかったが)――
時間は水の遺骸だとあなたは羊歯の紋章に書き、
――「人知れぬ微笑」(KM)から物語連合へと急ぐ。 

 
(羊歯の紋章というのは、括弧をはずすと羊歯になり紋章になる。括弧にいれると『羊歯の紋章』という誌名になる。1964年創刊、発行人北村皆雄。なかに「喪亡との対話=あるいは巌石と宇宙の詛祝」を書いている江原健人は、物語探求会を私も参加して立ち上げたMKその人である。革命家のなまえは永久に封印するのが仁義だろう(ごめん)。MKが高校生で論じていたブハーリンの本名を私は知らない。むろん、そのころ私はMKを知らず、知り合ったのは七〇年代にはいってからだ。亡くなって十年、だれもが匿名のなかでしか生き死にを迎えられない。「雨やよし風吹き通せ辺野古から」〈当確を聞いて〉。)