173文法の夢

藤井貞和

この世への ちいさな恋歌からの旅立ち
文末に けっして終助辞を置くことのない
大きな文の道なき道でしたね
ない話法や なかった承接を約束する
夢の集成でもありました 言触れに応えて
無文字の視界に 寄稿してくれた
あなたでした 終りがよければ
と係助辞は呼びかける 文中で
あなたは求めつづける それでも係り結びは
結ぶことよりももっと大切な
思いを託して 文末を解き放つのです
終止符のない物語文でしたが 私どもに
ふさわしいとふと思います

(改作。物語文の文末について調べていた研究者でしたが、実らせるのがむずかしくて、でも不満よりは大きな、とりくんだ証しをいろいろ遺してくれました。)