(AプラスB)Cは(A)Cプラス(B)C。
AかけるCは「関係させること」だから、
4に3を関係させるとは、3倍することで、
5も3倍することになり、4プラス5は9で、
3をかけると27になる、うそではないか。
プラスを夕暮れ時が連れ去ると、そっと「かけ」て、
Aに残土のBをくわえ、夕陽があかあかと、
3倍にする。――計算ちがいではないか。
さきほどから、ひぐらしの夏が引き算を誘う。
数学の入門書はしずかな汚染によって、
惨たる割り算を繰り返す。 あわれな建築家よ、
ひかりの堂宇を四則が這いのぼる、その時、
文字のない世界から亡友が還ってきました。
数字は数(すう)の「代り」なのだよ、
それを代数と言う。 おまえさんは記号だと言う。
三つと四つとがどうして「記号」なんだと、
また喧嘩がはじまった。
(新しい詩集を編もうとすると、詩篇が釣り上げたお魚のようにぴちぴちと抑えられなくなる。体力をうしなって、文字が逃げてゆく(小説家はさらに体力を必要としたでことしょう)。亡友は「詞(ことばだたかい)戦」〈『現代詩手帖』二〇二五・一〉に出てくる旧友で、数学をおしえてくれた。「ことばだたかい」は合戦が始まるまえに悪口を投げ合って相手を挑発すること。不愉快な言葉なので、このたびは「闘(とうし)詩」と改題する。)