010 過去を割る 

藤井貞和

過去を割る土器
だれかが
過去において割る土器
おおさんしょううお
まるい蛇
土器に蛙をいれて割る過去
だれかの火焰式土器
過去を割っていれる土器
だれかの土偶の
欠けらを置く岩倉遺跡
わらの柱に描く
這いのぼる火焔の樹
を置くうてな(台)、くら(坐)
過去に割った土器
過去によって割る土器
過去を土器で割る
だれかが火焰式土器で焚く
だれかが火焰式土器で煮る
地上から火焰が這いのぼる土器
野ねずみが這いのぼる土器
根をささえ衣類にのぼる土器
の影ひとつ
台、燭台に坐がひとつ
過去においてこれから割る土器
過去と土器とのあいだを割るハンマー
過去に土器をいれて割るちから
だれかが火焰式土器を書く
空の象形、台に書く
土器が割るかもしれない象形
過去から土器を取り出す
土器から過去を取り出す
だれかのために葉になり
だれかの枝になり
宇宙樹になり
だれかが火焰式土器に名づけ
だれかが火焰式土器を買い
だれかの火焰式土器を割り
だれかの火焰式土器に彩色する
だれかは火焰式土器を調べて
だれかのために這う虫になり
支える宇宙樹になって
幹を火焰が這いのぼって葉になり
枝を火焰でおおいつくし
過去からの土器を割る
土器が過去を割る
過去が割る土器、明(ひかり)
夢十夜(からあさひ)へ起きて
朝の装身具を置く台、坐

(土器が火焰を象ることはないだろうから、考古学者のロマンである。火焰のように見えたのは葉や枝で、巣をつくる鳥もいたし、蛇が這いのぼり髪になる。宇宙樹だろう。でも詩としては火焰式土器でよいのだ。)