224 魂のさくいん

藤井貞和

ふと思うことがある、
われらはさくいんによって、
偽書から取り出されると

見たことがあるな、
われらの偽書づくりが、
詩集を生む

精巧な偽書から、
さくいんで引く、
意識のつきあたりのところ

思う時がある、
われらは偽造する、
書物から差しのばす意識

われらの誤読によって、
生きて帰ってくる、
人名さくいん

事項さくいんに、
み霊を集める、
灰を送る

かききえる和歌の
現代語訳
さくいんに浮く水面

(夏は大好きで、冬も好き、秋は嫌いで、春が大嫌い。そんなはずだったのに、今年の夏は暑すぎて、ぐったりする。源氏物語でいうと、紫上という女性の最晩年みたいな気分である。旧暦だから、彼女は6月〈晩夏〉になるともうぐったり。翌月の14日に死去する。ところで参考書も教科書も注釈書も、紫上の死去を8月14日と決めている。おもしろいな。かぐや姫の昇天に合わせたのだろう。6月のつぎは7月じゃなかったかな。あれ、かぞえられなくなった。偽書かもしれない。夏の夜咄。)