雨期――みどりの沙漠44

藤井貞和

◎陸軟風(石原吉郎『いちまいの上衣のうた』のうち)  原題は
   「望郷」だった? 海を見たい
    海 (→) 石への変質
1949年カラガンダの刑務所で 号泣にちかい 思慕 日本海
海であることにおいて それは一つの(ほとんど)倫理となったのである
1949年2月 ロシア共和国58条6項で 4月29日(判決)
 すがりつくような 望郷の思い
 錯誤としての望郷
 故国からも恋われているという サクゴ
 海は過渡的な 空間
 望郷とはついに植物的な 感情であろう
判決とは 肉体的な感覚 断ち切られた故国
 観念や思想が 肉体をカクトクするのは ただそれが 喪失するとき
第二収容所へ
 風 五月を明日にまちかねた 風
  そのときまでは 風はただ比喩
  このとき風はかんぺきに私を比喩とした
   恐怖――故国から忘れられること
    怨郷
   錯誤?
 忘郷

(1953夏ナホトカ。12月1日帰国。)(「あの部屋をなぜノックしないで、わざわざ自分の後ろ、昨日の部屋に行きたいのか。これが人間なのかな」李静和『求めの政治学』2004)(「……ところで、いったい人間は何をもっとも恐れてるだろう。新しい一歩、新しい自分自身の言葉、これを何よりも恐れているんだ……」『罪と罰』〈石原吉郎1957年のノート〉)