ハイド――翠ぬ宝77

藤井貞和

言えるところにまではたしかに登攀する哲学や、ひとりよがり。
きみに訊く、尋ねる、それならと、リズムを私は問う。

性の歴史の数ページ、置き去りにしたままの詩。
そんな一篇、一篇で終わる。 そう思われた日に終わる。

きみの誕生日はいつで、かさならないことばの行き先で、
切っ先を立てて、なぜ草むらに屍体を投げる、夢のなかで。

幻影の人の理性の狡智が大海に沈む、雄大な落日。 もう一つの
夢もまた終わる、きみが地上の詩人であることにはかなわなくて。

 
(〈そうだ、私はヘンリ・ジキルの姿で床についたのだが、眼を醒ましてみるとエドワード・ハイドになっていたのである〉(スティーヴンスン)。「まれびと」は、西脇のなかで「幻影の人」になる。セーヌ川に浮いて、詩人は屍体となって詩を書く。だれがそれを実証する、流れる水に沈みながら、十八歳の精神がことばをなくしたからっぽのからだで書く。そんなすべてが幻影であり、悪夢から帰還する、床に眼を醒ます、だれも知らないハイド。)