むごうた――翠ぬ宝83

藤井貞和

われらありて、人力発電所を発明し、
   子々孫々へ電気を送れ
ロンドンに飛ぶ火。怒れる若者の
   怒りを集め、発電をなせ
死体から盗電われら― 引き込みて
   明るく照らせ。裸電球
電熱のニクロム線を走らする
   毛布。世界にたった一枚
日曜のあさ、静かなり。死体のかず― 
   夏の戸外に、累々と積む
熱風の泊原発、累々と
   死者を積む 見え、小樽みなとに 
放射線量 すでに致死。この国が
   こうして滅ぶことを学んだ
静かなる朝陽さしくる日曜日。
   放射線量 臨界を越ゆ
道路には死体散乱。どうやって
   巣鴨駅までたどりつけるか
室内にいる私だけが助かって、
   よいのだろうか。朝陽さしくる

(昔の連歌師たちが集まって連歌をなすのに、3日で1000句という、ものすごい勢いだったという。ひとりでなす場合もあり、それなら独吟1000句だ。とても3日ではむりだとしても、どれぐらいできることか、八月の数日かけて短歌形式500余〈1000句あまり〉に挑戦する。「うた」というのが内在化して、詩で言うとシュールレエルな支え方をしているのだな、というようなことは改めて発見したことどもであり、夢の体験かもしれない。)