翠の数式94――終わりは来るか

藤井貞和

括弧はちいさいが
正確な一語を容れる

括弧のなかは正確
正確な日本語によって

無理数
対数計算

輪を包囲する
くうかんの「虚」に投げいれる

ついに
数値が終わる日の

せめて前夜なりとも
好きな人といっしょにいましょう

文末を正確にね
最終の句読点

(「石牟礼道子さんの『苦海浄土』を事故後に読み直して、自分もああ言ったきちっとした正確な日本語で表現できたらいいなということを考えています」〈若松丈太郎〉。「できれば福島原発の『苦海浄土』を書きたいなと。できれば、ですけど」〈同、日本経済新聞〉。終わる日の前夜は好きな人と一緒に、と小出裕章さん。誰もが死を覚悟した瞬間、と前福島県議会議員高橋秀樹。)