ギターが消えた(その2)

スラチャイ・ジャンティマトン

荘司和子 訳

わたしのバンドはメンバーがちょくちょく変わるのだが、ギターが無くなるという事件は一度しか起きていない。10年も前のことだったから、どんなことに気を付けているべきかをすっかり忘れていた。

その日はバンコク郊外の大きなライブハウスでの演奏だった。生きるための歌が一番ヒットしていたころで、集まってきた人で活気にあふれていた。演奏が終わるといつものように荷物を次々に車に運んで積んでいく。

好意でギターを運んでくれて車に載せてくれた者がいた。ところがその車はわたしたちの車ではなかったのだ。その辺りのタクシーかなんかだったのだろう。それ以来わたしはファンの連中をあまり信用しないことにしていた。ずっと気をつけていたので、何も無くなるということはなかった。細かいもので、太鼓を叩くばちとか、足踏みのエフェクターとかは無くなっても後日戻ってきたものだ。

そして今回だが、パッタルンで起きた。パッタルンはタイの南部で初めてどころか毎年来ているところだが、いまだかつて何か盗まれたということはなかった。こそどろだろうとなんだろうと、だ。ここの人たちとはなしてみると、なんやらかんやらいろいろ言われた。

「ここの人間はこんなものなんだ」という者がいた。
「ひとさまの物をもってきて自分の宝物にしてしまう。それが腕自慢みたいなことで、貧困でやるとかいうのでは全くないのさ。ときには自分へ挑戦というのもある」
「へぇ〜」とわたしは頷くだけはして、それから自分がどれくらい不注意だったのか考えてみた。車をしっかりロックしていなかったのではないか、窓を閉めるのを忘れてはいなかったか、とか。何故かと言えば消えたギターは窓のそばに置いてあった。ただし降りてきたときドアはしっかり閉めた。車もロックした。ギターの持ち主はホテルに入るまではずっとギターをかかえていた、と主張している。ただ今回は部屋まで持ち込まなかったのだ。何故かというともうすでに明け方だったので、2、3時間なら心配ないだろうし、車もホテルの真ん前に停めてあったし、という。

信じられないほどあきれたことを言うやつもいた。
「えっ、ぼくがギターをさがしてくるんですか? え〜っ! ぼくの村ではですねっ、2、3ケ月前ですがね、頭のすっごくいい子供の象が車を盗んでそれに乗ってジャングルに入ってどこへ行ったか分からない。ショーに出ている象の子供ですよ〜。また盗むこともできますよ。今どこにいるんだか誰にもわからないんですよ〜」

わたしは笑いを禁じ得なかった。

「この辺では車がひっくり返って壊れているのを見つけると、村の連中が手押し車をもってきて中の物を家に持ち帰ってみなすましている」と、こんなはなしまで飛び出した。