もの書き(4)

スラチャイ・ジャンティマトン

荘司和子 訳

そう、それだ。そこから初めの一行、初めの一語が無垢の白い紙の上にタイプライターから打ち込まれたのだった。それまでにこの手の小説を読んだことはあっても書いたことなどないぼくたちにとって、最初のシーンをなんとか絞り出すのも至難の業というものだった。

「おだやかな陽の光が彼女の寝室に差し込んでいる。淡い緑色のカーテンが微風に当たってわずかに動く。まるで今現在の想いにも似て……」

「ロマンチックだなあ」とジュンは長ったらしい文を読んで言った。
実際のはなし、わたしは自分の部屋を表現することから始めたのだった。その部屋の自分を彼女に置き換えてみただけだった。。。
その紙の一番下までずっとタイプを打ちつづけたが、まだ何も起きていなかったばかりか、起こりそうな気配すらなかった。ぼくたちは自分たちの考え方による良質な白表紙本というものを達成すべく相当時間をかけて話し合いながら書いたのだった。

誰でもが想像がつくようなありきたりの筋については、これ以上説明する必要もないだろう。が、はなしはそこでは終わらないで、けっこうな1本になった。 それで誰かに読んでもらって、人前に出せるものかどうか批評してもらいたいと思った。

買ってくれる人や出版社がどう思うかそれが知りたかった。というのもぼくたちはそれがどういう人たちか、どこへ行けばいいか、いくらくらいになるのか、それすらわからなかったのだ。

プラスートがいたのでいい仲介者になってくれた。ぼくたちの書いたものを黙って受け取ると、開いて読んでみもしなかった。そう、読んでみる必要など実際ないわけだ。彼はぼくたちの希望を抱え込んで出かけて行ってそれっきりその日もその次の日も戻らなかった。プラスートは以前も書いたように友だちが多くて、いったん出かけると何日も帰宅しないのだ。いずれにせよぼくたちの希望はプラスートひとりに託されたのだった。

それから終に3日目、プラスートは酒の匂いをふんぷんとさせて帰ってきた。酩酊状態とまではいっていなかった。酒の肴を2-3包み手に提げてきてくれたので、下宿は大賑わいになった。ところが、悪い知らせを受けてぼくたちは押し黙ってしまった。
「きみらの小説は通らなかった」と、言うや顔を叩いて口をつぐんだ。
「通らなかったって、どうしてだい」

(つづく)