主夫になりたい、という願望はあったりします。といっても楽したいというわけではなくして、そっちの方が性に合ってて、社会的にももっとお役に立てるかな、などと考えるわけでして。
朝起きて、お弁当と朝食を作って、午前中にだいたいの家事を済ませて、午後は自分の趣味やら翻訳に時間を費やして、夜のディナーが終われば早々に寝る。……なんていうふうな生活がありえるとするなら、おそらく洗濯以外のほとんどが(私にとっての)創造的になるという何という素晴らしい生活!
あれ? 今のひとり暮らしと大差ないかも。
とはいえ、結婚するとしてもあまり相手には依存したくないなあ(&依存されたくないなあ)、と思う今時の若者でもあるわけで。伝統的な〈結婚〉というより〈パートナーシップ〉のイメージですね。
主夫になるについて相手に求めることと言えば、住む家を提供してくれることと、食費等の家事費用を負担してくれることくらいで、自分の衣類やら楽しみやら贅沢費については自分で稼ぐから、ふたりで暮らす分には特に家計をひとつにする必要性を感じないというか何というか。
……なんて言うと、「それは主夫というより家政夫だよ!」と突っ込まれてしまうのですが、確かにそうかも。でも相手が誰でもいいわけじゃないし、利害関係だけで結びつく気もさらさらないんですが。
今のところは妄想止まりですけどね。若いうちはまだまだ結婚しそうにもないので(そんな気配もなければお話もないですし)、人並みに(オトメンとして)そういう生活への幻想を抱いてしまう微笑ましい話として流していただけると幸いです。
欲がないよね、ともよく言われるのですが、おいしいご飯とあたたかいお布団とお風呂があれば、欲望としてはほぼ満足しちゃうんです。あとは古い本を図書館から借りてきたりなどして、古い映画を見られればそれでよくて。
あとは何かしら生きるためのお金があれば、あとの時間もお金も能力も、できるだけ公共的なことに使う。クリエイティブコモンズでの翻訳でもいいし、青空文庫でもいいし、〈公共事業わたし〉みたいな感じで。
そういうことに専念するには、主夫生活がいちばんうまく行くのかな、と思うわけです。
……実際に今やってることとは、まったく違うんですが。社会人として働きづめ、研究者として調べづめ、というやつで、現実問題としては、人生をセミリタイアでもしないとそういう生活は無理なのでしょう。
〈寿引退〉?
文筆業や研究職にそういうのがあるのかどうかはわかりませんが、そんなものかもしれません。専業主婦が一般的だった時代には寿退社がありえたのですから、オトメンも主夫になるときには、そういうことがありえるのかもしれません。
正直のところ、オトメンが増えてきたことによって、これからどんなことが起こるのか、どんな問題が生じてくるのか、っていうところで、わからないところがあるんですよね。予想としては、こと〈ビジネスの世界〉においては、これまで女性が社会進出で感じてきたことを、男性が再び繰り返して経験していくんではないかと、そんなふうには思うんですが。
結婚と引退のこともそうですし、育児休暇とか、職場でのセクハラとか、男性であるがゆえに〈余計〉に理解されがたいという障害が出てくるものと考えることができます。
とりわけセクハラに関しては、若いオトメンはすでに学校や入り立ての職場で体験済みなのではないでしょうか。たとえば、男だから卑猥なトークは好きなはずだろという思い込み、男だから結局は狼なんだろという視線――それはオトメンが思わずため息をつく、耐えられないことのひとつでもあります。
今の時代、学校や職場では、たいていセクハラに対しての対処法などの講習会・講演会などが開かれるわけですが、そこへオトメンが参加するのはまだまだ厳しいものがあります。だいたいの参加者は女性の方ばかりですし、男がそこにいるというだけで厳しい目を向けてくる(色眼鏡で見る)参加者も少なくありません。
そうすると違和感のひとつでも抱きたくなるものです。ここはセクハラの問題を考える場なんですよね? ただ単に男が嫌いだと愚痴を言う場ではないんですよね? などというふうに。
オトメンがよく生きていくためには、男性という立場からこれまで女性の問題であったことに直面していかなければならないように感じています。そしてそれは、想像以上にきびしくてつらい道です。
『オトメン(乙男)』のTVドラマが放送されたことによって、もちろん認知度は上がって、これまでより理解されるようになるかとは思いますが、社会に受け入れられる存在となるには、まだまだ時間がかかるでしょう。社会にとっての異物はまず恐れられ、そのあと笑われ、そのどちらもが尽くされ飽きられて(慣れられて)はじめて、溶け込むことができるものです。
TVドラマは総じて楽しいコメディで、私もとても大好きですが、放送が終わるにあたってちょっと真面目なお話をしてみるのでした。