……くしゅんっ! すすす……ごしごし。
がぶんじょうでございます。じばじおまぢを。――――(処置中)――――
花粉症でございます。つい数年前より発症致しまして、春先はご覧の有様なのです。なってみなければわからないとは言いますが、ここまで鼻と目をやられてしまうとは思ってもみませんでした。さすがに最近は手軽なよいお薬もあるというわけで(私は普段よりその形状からそのお薬をハイパーフリスクと呼び習わしております)、人前に立つときはしっかりと抑えておくのですが、四六時中使うのも何ですので、仕事場で文章を書くときなどは花粉も外から入ってこないからとあえて油断してみれば、それでもなるときはなるのですね。
定期的なおくしゃみと、隙を突いてくるお鼻水と、裏を掻いてくるお目々のおむずむず。鼻はかめばよろしゅうございますし、お目々は多少も我慢もできましょう。しかしながらお口から放たれるおくしゃみ様におかれましては、何ともしようがないのもまた難しいところ。とはいえどうしようもないものなら、ないものなりに愉しんでしまえばいいと思いついてしまったのはいつのことだったでしょうか。
くしゃみの音はお国や言葉や文化によって違うと言います。ということは逆に言えば、くしゃみの音色はひとつには決まっていないわけでもあり、とすればくしゃみが出る瞬間に意識してこちらから操作してやれば多様に変幻万化自由自在、色々と遊べるのではないか――ぁっ――くしゅん。
これはシンプルなくしゃみですね。しかしお行儀よく「くしゅん」と小さくするのは意外と技術がいります。くしゃみの力を制限せずにやつの勝手に任せると「へくしっぶるるっ」みたいなおっさん系くしゃみになってしまうので、くしゃみをするときに内側へ閉じ込めるような、口を小さくしてほんの少しだけとどめるように「く」と息を出し、あとは鼻と口に預けて風を抜くことが必要となって参ります。小さな「くしゅん」はお上品にも聞こえますので、お淑やかさや雅さを保ちたい方は練習なさるとよいでしょう。
あるいはピーターラビット的なおくしゃみを操ってみせるのも、なかなか絵本的でしゃれているのではないでしょうか。イギリス的にはくしゃみは”kerchoo”や”atishoo”といった表記がありますが、The Tale of Peter Rabbit に出てくるピーターくんのくしゃみは”kertyschoo!”つまり無理矢理カタカナ表記すると「カーティシュー」、これをあなたのおくしゃみの瞬間にばっちり決めてみせるのです! ――ふぁ――かーてぃしゅーっ!
この場合は、おそらくくしゃみを留めるタイミングが大事なのだと思います。「くしゅん」の場合はかなり早い段階で抑えなければなりませんが、この場合は「かー」と続いているので、しばらく口の開いた状態で息を吐いているのだと思われます。そこから舌と歯を合わせて留め(たぶんここが「てぃ」)、あとは歯の隙間から息を吐き出す(「しゅー」)、といった感じでしょうか。このコツをつかむには何度かの訓練が必要なので、習得したい人は、今書いたようなわたくしの要領を得ないアドバイスを参考に頑張ってくださいねっ!
しかしですよ、こんなものはすでに存在しているくしゃみなのです。そう、独創性がないのであります! いったんくしゃみで遊ぶ愉しむと決めたからには、何かしらのクリエイティビティを発揮してですね、創作くしゃみにはげみたいではありませんか! そこでわたくしは考えました、自分に合うくしゃみとは何なのか……品を崩さなずになおかつ自己主張もひそかにこめた、そんなおくしゃみは、果たしてありえるのかと……!
そこでわたくしが考案したのが……ふぅっ…………「かふん」……このくしゃみです、いかがでしょうか、読者の皆様――!
くしゃみの拡散を抑えるという上品さを残しつつ、このくしゃみが花粉症によるものであることを周囲に伝える……これぞエレガンスなおくしゃみの極み。ふっふっふ、しかもこれはすっごくむつかしいのでありますぞ(何だか偉そう)。
これは「くしゅん」のくしゃみの形がある程度役に立つのですが、そのままやると「くふんっ」にしかなりません。まず覚えておくべきは、くしゃみの出る前に口の中で留めると「く」の音になり、歯を下ろした口からは「しゅ」の音、口を閉じて鼻を使うと「ふ」の音になるということです。それさえわかれば、後ろの方の音は作りやすいです。
ですが、問題なのは前の「か」なのです。「く」はいったん留めれば出るのですが、「か」はある程度その口で息を吐いていないと出ません。しかし息が出ているということはもうくしゃみは高速度で外へ向かっているということ、口を閉めるのが間に合わなければそのまま「しゅー」か「ちゅー」となってしまいます。ということは、出かかっているくしゃみとちょっと出したところで留めて、そこから息を鼻に移さなければならないということ!
こいつはなかなかの大事《おおごと》ですよ。「かふん」に挑むあなたは、何度も口から「かはぁあん」になってしまい、あるいは盛大に失敗して「かはふっしゅーぅぅふ」と無様な醜態をさらしてしまうかもしれません。たとえ留められたとしても、そこからはどうしても最初の「か」がシンプルな”ka”ではなく”kha”になってしまうという先走るhの混入に悩まされることになるでしょう。〈ちょっと出して〉とは文字通り息を吐くのではないのです、「く」が内側で留めるのであれば、「か」は外に近いところで留める、そのような感覚なのです。
適度なお口でお留め差し上げる「か」と鼻にお風をお通し申し上げる「ふん」、この組み合わせがあってこそ「かふん」というおくしゃみがようやくお出ましになる、この隠れた努力と技術にこそ、きっと何かしらの品格なるものがあるのだと思います。
さしものわたくしも、かなり集中していないとこの「かふん」はできません。まだ習熟にはほど遠いのですが、いつか「かふん」というくしゃみにいつでも応じれる、そんな大人になりたいものです。