干し草の山

高橋悠治

代官山ヒルサイドリブラリーのために 家にある本から10冊を選んでみた

1)三木亘『悪としての世界史』文芸学藝ライブラリー 歴26 2016
2)ルイ・アルチュセール『哲学について』(今村仁司・訳)ちくま学芸文庫 2011
3)ティム・インゴルド『ラインズ 線の文化史』(工藤普・訳)左右社、2014
4)岩田慶治『草木虫魚の人類学』講談社学術文庫 1991
5)Samuel Beckett:Selected Poems 1930-1989 Faber and Faber 2009
6)Ernst Bloch:Traces(tranlated by Anthony A. Nasser) Stanford University Press, 2006
7)蒲原有明『夢は呼び交わす』岩波文庫 緑32-2 1984
8)井筒豊子『白磁盒子』中公文庫 い59-1 1993
9)小松英雄『平安古筆を読み解く 散らし書きの再発見』二玄社 2011
10)安原森彦『源氏物語 男君と女君の接近―寝殿造りの光と闇』河北新報社、2013

一度は読んだはずだが 書いてあったことはほとんど忘れている この機会に読み返そうと思ったが できないうちに それらを紹介するイベントの日が来てしまった 

積み上げられた本の山のあちこちをめくりながら 目についたところから思いついたことを話していると 話はその本から離れていく 本には目につかなかった場所が隠れていて 別なページにあるその場所は そのとき話していることでますます隠れ 見つからなくなっていくかもしれない

一冊の本がことばの流れのなかに閉じ込めている 河底の小石のような いつもは目につかないが 光の加減で一瞬見えたような気がすること 確かめようとすると そこには跡もないし ことばとして書かれてもいない 振動の痕跡であり 予兆でもあるような 漂う気配のために ある本をとっておく

この10冊のなかに そういう本があるかもしれないし 一冊もないかもしれない それぞれのなかにはなく 10冊積み上げると 全体として感じられることかもしれない

そうして一山の本を しばらくのあいだ積んでおく