ことばを区切る

高橋悠治

ツイートというかたちは すくない字数で思いついたことを書きとめておくのによい と思っていた たとえばこんなことも 

どこにも属さず 組織に雇われてはたらかない できれば半分以上の時間をあけておく 瞬間の粒が希薄な時間に散らばる ひととおなじことをしない つよい絆をもたない 「糸ほどの縁を取りて付くべし」(芭蕉)

その後 もうすこし書くこともできる こんなふうに 

少数のともだちがいて 無視されるだけのまったくの無名とは言えないが 都会の片隅でひっそり暮し 食べていける程度の低い収入と 自由に使える時間があり 経験や技術にしばられず すこしずつあれこれのことをためしてみることができていれば 「雑草の生活」はたのしい と こうありたいものだが なかなかそうはいかない たまには世間に呼びだされ 求められた役を演じて でも 居着かないうちに帰ってくる どこでもないところ だれでもない影の家

でも 論理のことばはどこまでもすすみ 現実から離れて舞い上がる こんなふうに

組織に所属し 他人のためにはたらくのがあたりまえという感覚はいつからあるのだろう 上下の階層を細かく分け 競争相手を蹴落として這い登っていく 選ばれる一人がいれば 選ばれなかったその他大勢がいる そして頂上に立つと その上にまだ雇い主がいるのがわかる 国際社会と国際経済の両方からしめつけられ 朝から晩まではたらいて 役に立たなければ捨てられる 地位や役割をもつ人間には 代理や代役はどこにでもいる 

ことばにならない感情は ことばのなかで薄れ 論理は空を切る 

政治家だけでなく 音楽家でも生きかたはおなじ 審査で選ばれ賞をもらうのは いっときの餌付け 話題になり 飽きられるまでおなじ芸をくりかえし やがて忘れられる スターやタレントになってしまえば 周囲に人が集まって うごけなくなっていく 自信たっぷりに上から目線で物を言い 立ち去った後に笑われる

短く書こうとするとアフォリズムになりやすい 気のきいたことばは疑わしい あざやかなイメージやたとえをふり捨てる「かるみ」は 一瞬の幻か