しなりめぐり

高橋悠治

「歌仙は三十六歩 一歩もあとに帰る心なし 行くにしたがひ心の改まるは ただ先へ行く心なればなり」

時間が行くだけ 帰らないのは 見かけか 新しさをもとめる心か

行くだけの道はない まっすぐな線を引いても 曲がらない道はどこかで終わる 壁か崖か 川か海か そうなったとき ひとつ前の角までもどれば 別な道があるだろう まわりこんで向こう側に出られるか 迷路の一筆書き 先が見えない 壁を伝って曲がるうちに 思いがけなく外に出る  

つながりを切る けしきを折り曲げて 角に反対方向を映す鏡を立てる 切れてもどこかで やっとつながっている

時間のひだが飴になって溶け出すなか なにか細い糸のように抜けてくる 「よく見ればなづな」 わざのあそび あそびのわざ

「付け様は 前句へ糸ほどの縁を取りて付けべし 前句へ並べて句聞へ候へば よし」「蓮の茎を切ると糸を引くように」とも言われる

先へ先へと行く下に 季節のめぐりがはたらいている 「行く春を惜しみけり」 帰ってくる春は 根が切れている 年はめぐりながらすりへる 「なんで年よる雲に鳥」 遠くを見る 近くをきく 「何にとどまる海苔の味」 「ただ今日の事 目前のことにて候」

目をそらす 「影の夕日ちらつく」 ことばが入口となり窓となる その順を乱せば 別の窓がひらく