『名井島の雛歌』から〜言語系アンドロイドのための〜

時里二郎

 《じょのうた》 序の歌

ねえさんも
にいさんも
どこへいった

ないしまの
ひとり わたしの
ひなのうた

 《ねえさんのあかいこのみ》

ねえさんの赤い木の実
小さな神さんの口許に見えた
ねんさんの声のみぎわに
キツネの尻尾 
風のねどこを探して
にいさんの声だ
金のやさしい光のなみ
兄沼(せぬま)からやってきたにいさん
いい匂いのする物語を播いて
島にないものを
おしえてくれた

ちいさな神さんが
聞き耳をたてている

 《いぬたにほうと》

いぬたにほうと あかりがひとつ
さるのあめふり やまふたつ
いかりのきとの あらいきみっつ
ねこのぬけみち よつのつじ
うまがれのいえ かぞえていつつ
むつになるこが うしひきはじめ
ななつざか きつねみたにじ つぎはぎのきぬ
ゆうやけかかし かぞえてやっつ 
ここのかうまし つきのとじ
とおをかぞえて ないしょ ないしま うそをふく

犬田にほうと 灯りがひとつ
猿の雨降り 山ふたつ
猪狩りの帰途の 荒息みっつ
猫の抜け道 四つの辻
馬枯れの家 数えて五つ
六つになる子は 牛曳きはじめ
七つ坂 狐見た虹 継ぎはぎの衣
夕焼け案山子 数えて八つ  
ここの香うまし 月の杜氏
十を数えて 内緒 名井島 鷽を吹く