吹き寄せ控え

高橋悠治

風が色とりどりの落ち葉を吹き寄せ 乱れ重なるまま 入れ混ぜておく

ことばも音も 思いつくままに ほどよい隙間と息継ぎで フレーズをつぎたして 流れが途切れず めだたずに景色が変わっていき 前にさかのぼらず 見えないうごきに押されて はこばれてゆき 決った目的地がなくても 思いがけない方向にまがりくねる

考えぬいた課題に答を見つけ 造りあげた思想に沿って 隙なく全体を構成し 分析した要素を振り分けて 見えない構造を仮に立て 順序をつけて書き出していくやりかたが 書き手の自由をしばり 受け取る側の想像力を予想した道筋に誘導しながら 作品の映し出す風景に枠をはめてしまう というようなことをくりかえして何十年も経ったあとで これはもう過ぎたこと 完成したときは そこに欠けていたなにかが よくわからないなりに 予感され 次の一歩は 最初からやり直しとなり そんなことは いつまでつづくのか

新しいひらめきも 使ううちにすりへってくるばかりか 予測されたコースをはじめから辿っていて 新しいと思いこんでくりかえしているだけだったと わかる時が来るのか 来ていないふりをし続けるのか

ひらめきも思いつきも 構成の枠に入れずに放り出しておき 言いさし いいよどみ 言いなおして 言い終わらず 言い切らず

わかったと思ったこと 確信をもったことを言う口調でなく 思っていることは言わない どこからか聞こえてくることを聴いて 耳にとまったかけらを貼り合わせながら それを道具に使って意味や論理を組み上げるのではなく 区切りなおし せいぜい組み替えにとどめる

響きや色を からだのなかの流れに映してみる 上下 前後 右左 内外 遠さ 軽さ 寒さが感じられるか それがどの方向に流れるか 一般化し 抽象化とは反対に 概念もイメージもパターンも からだに流してみて したしみを感じるなら 彩りと韻に変えて記憶し ためしながら すこしずつ変えていく

ツイートの140字の制限のなかで書きとめたメモをたばね 水牛のように のコラムに流し込み 短い音のフレーズを 三味線の旋律型やバロックのmusica poetica のようなイメージ図式にまとめて 即興を書きとめるように 短い曲にする そこでは ことばや音の書きさしの間に付け転じの関係が自ずから生まれ 季節のめぐりが見え隠れするはずだが