製本かい摘みましては(147)

四釜裕子

付録が話題の月刊『幼稚園』が、7月号は早々に重版決定したそうだ。当号付録は江崎グリコとのコラボレーションで、4つのボタンを押すとコーンアイスが出てくる自動販売機「セブンティーンアイスじはんき」が作れる紙工作キット。ぱっと見、直方体だし、幼稚園児にも分かるように作られているのだろうから簡単でしょうと思いきや、「幼稚園ふろくチャンネル」なる動画を見ると作りはかなり細やかだ。これ自体はおもしろいのだけれど、教えるおとなとか、こうしてのぞくおとなのために、おとなが動画を用意していて、よいこのみんなには、おとなになると自分で自分が好きなものを買えるわよ、とだけ言いたい。

こちらの転居のせいでいつからか届かなくなったJT生命誌研究館の季刊『生命誌』の付録も楽しみだった。毎号、さまざまな仕組みを駆使した紙工作がついていて、今でもいくつか手元に残してある。からくり仕掛けありのペーパークラフト・古生物シリーズ、似ている生きもののシルエットが並ぶように組み立てられる「他人のそら似」シリーズ(ホホジロザメとイクチオサウルスとか)、38億年続いてきた生きものを支えるバランスを学ぶ「生きものヤジロベエ」などなど。研究の成果を、一般のひとが楽しめるように美しく表現することを大切にしてきた、中村桂子さん率いる同館の特徴の一つと思う。

そしてこちらは付録ではなくて実物見本ということだが、『デザインのひきだし』。2007年の創刊で、実物見本が付くようになったのはいつごろからだろう。最新の37号の特集は「活版・凸版」。実はこの実物見本、材料費が乏しい製本の授業で重宝してきた。オフセット印刷や紙の加工特集などの見本をばらばらにして学生にまず好きなものを選んでもらって、それに合わせて無地の安価な紙を選び、それぞれの製本材料にするという具合。

数年前から、「身の周りにある紙の中から、製本で使えそうな、きれいなもの、おもしろいものを集めて持ってきて。店で買う必要はありません」に対する反応が鈍ってきていた。「雑誌でも包装紙でもフライヤーでも紙ゴミでも、いろいろあるでしょ?」と言うのだけれど、つるつるのうすうすの紙にぺかぺかに刷られた洋服通販冊子を複数の人が持ってくるようになったのだ。この紙をきれいと思うの? この柄をおもしろいと思うの? これを使って製本してみたいと思うの? 

聞けばそういうことではなくて、ふだんの暮らしでみつけられる「紙」がそれだっただけで、きれいともおもしろいとも思っていない。買うのはナシと言うのでこれを持ってきた、というのであった。暮らしの中から紙が減っているのは確かだろう。電車の車内吊りや新聞の印刷広告もテキトーなものばっかり(今朝の『君の名は。』の新聞両面広告はよかったけど)。それにしても、なんということだろう。今、「紙」を初めてまじまじ眺めようとしている人の日常に、うつくしい印刷物がこれほど減っているなんて。

しかし、ただそれだけのことかもしれない。うつくしくておもしろい紙や印刷物を知る機会さえあれば、たちまち夢中になるのでは? それで『デザインのひきだし』実物見本。毎回みんなくらいつく。選ぶのに迷ううちに夢中になって、作業しながらわいてきたアイデアに自分でびっくりしている姿を見るのがうれしい。終わってほんとは『デザインのひきだし』本体を読んで欲しいのだけれど、毎度それは「次の機会に」。「次」は自分で見つけてね。もう、ひきだしの一つは開いているのだし。