製本、かい摘みましては(39)

四釜裕子

「Rainy Day Bookstore & Cafe」で5月24日、青空文庫製本部の出張講座で、八巻さんと製本ワークショップを担当しました。会場はスイッチ・パブリッシング社が運営する本屋+カフェで、酔っぱらってのぼりおりするには危険に違いない階段を下りた地下です。打ち合わせで、真っ白な紙をとじるのはおもしろくないからスイッチ社の刊行物を素材にしませんかと言ったら、雑誌「coyote」から抜き刷りした星野道夫さんの「アラスカどうぶつ記」だったら人数分用意できるとのこと。それで一回目は、中綴じ上下二段に組んだ「アラスカどうぶつ記」をまん中で切って並べ替え、ひと折り中綴じの布装ハードカバーに仕立て直すことにしました。

作業の最初の楽しみは、本文紙をどう切るか。上下二段に組んであると言っても全てのページがそうではなく、表紙は中央に熊の愛くるしい写真があるし、次を開けばぐっと下の位置にタイトルがあります。私の試作品は熊の顔を無惨に断ち切り、タイトル文字も上半分だけという無粋なヤツでしたが、参加したみなさんは口々に、星野さんが撮った熊にカッターは入れられないと、早速にワーク、ワークがはじまります。熊の全貌が見えるように折りを工面したり、好きなページが活きるような組み直しに余念がなく、のっけから予定時間オーバーの、楽しい予感。

表紙用の布はこちらで用意しましたが、希望するひとには手拭いを持参してもらいました。アイロンで、接着芯を貼って使います。製本でやるところの布の裏打ちはめんどうで、さらに悪いことには、誰かに聞くほどもっとめんどうなものに思えてきます。布は製本に近しいのに(もしかしたら紙よりも!)、どうしたことかと思うのです。洋裁や手芸をしていればなじみの接着芯が、お楽しみのための製本の味方にならないわけはなく、そう考えて昨今よく使うようになりました。おかげで接着芯自体の進化も知ることができて、楽しみが増します。

さてワークショップではそれぞれ微妙に違うサイズの本文紙が切り出されました。その大きさを基準にして、表紙の芯になる2mm厚のボール紙を切っていきます。この段階で、今回のだんどりでは表紙にタイトルが入らないことを参加者に告げます。それが嫌なら、たとえばボール紙の厚みの半分を削ってくぼませたり抜いてタイトルを入れるようなサンプルを前にして話しますと、まもなくそれぞれの手が動いてまたまたワークがはじまります。この後に、糸の色、穴の数、針の運びを考える「かがり」という華やかなワークがあるのですが、徐々にいい具合に作業進度にズレが出てきて、順番に大きいテーブルでノリを入れるのを見ながら随時、おいしいコーヒーをいただきます。

この後はそれぞれが、さみだれ式に完成へと一気に邁進していきます。一人一人進む作業に付き添うことになるので、全体を眺めることができません。一冊ずつの本を前にしてしゃべるのが一番の楽しみですが、最後の最後にそれがままならなくなるというのが残念、今回はみなさん、どうだったのかなあ――。この後レイニーデイでは、「Rainy Day に関わる出版物を素材にして、まるごと、あるいは解体したりリメイクして新しい本のかたちを作る楽しさを体験」する製本ワークショップとして継続の予定です。ワークショップとはまた別に、作ったものを持ち寄ってただしゃべる会もやりたいね。どうぞよろしく。