パンとサーカス

北村周一

圧うすき線描のごともレシートの文字は出で来て酒量を告げる

足るを知れと言われて少しかんがえてコップをきょうはさかずきにする

畳み掛けてきたる正論まえにして声に呟くそれはぼくのコップだ

歩みつつ憤慨しつつそを口に出しつつ老いてゆくんだろうな

へらへらと缶の蓋など撓ませて凹みいるなり ぎんいろの顔

朝起きて夕の献立思案する吉本隆明氏的煩悩おもゆ

おおいなる表面張力濡れた手がいできて指に〈おいだき〉を押す

駅前で目と目が合えばてのひらにテュシューいただくECCの

町田駅連絡通路に躓いて泳ぐ左右の自分の手足

旧陸軍の射撃場跡真直ぐな県立相模原公園に遊ぶ

音なれど泥いろにしてこんなにも近くを飛んでゆくヘリコプター

はたはたとはためくもののいきおいに絆されにつつ投票を終える

自治会に自衛隊にといざなえる横断幕は長さが同じ

公民と自治の名のもと粛々と刃物研ぎ師が刃物研ぎおり

戦争へ行ったことある父さんの話はふんとねむくなるだよ

戦争に行かず仕舞いの叔父さんの話はいつも軍歌で終わる

いつのまに家の南に新幹線北に東名 五輪の前後

絵葉書や切手とともに抽斗へ仕舞いわすれし東京五輪

TOKYOに五輪の来ること心から祝福したいとテレビは言うも

お笑いに出るを目指してがんばったと五輪選手が目かがやかせいう

原子力ムラ感染症ムラ電波ムラ五輪音頭に酔い痴れしわれら