バーチャル・ナース

さとうまき

横浜赤レンガ倉庫で難民支援のイベントをやることになった。しかし、あまり人が来ない。ちょうど初音ミクのコンサートを隣でやるというから、人が流れてくれるとうれしい。すでに野外に作られた特設ステージの前にたくさんの人だかりができている。
「ところで初音ミクってだれですか?」
「知らないんですか? バーチャル・アイドルですよ」
「え、バーチャン・アイドル?」
「違いますよ。つまりですね」
要するに、コンピューターグラフィックスの中から誕生した歌手らしい。コンサートって言ったって、ただ単に大型スクリーンでアニメを流すだけなのに、こんなに人が集まっている!

結局、僕たちの、イラクとシリア難民の写真展、トークと初音ミクファンはあまりにもかけ離れていたのか、人は流れてこなかったが、それでも、青いカツラを特注し、コスプレの3姉妹を連れた親が遊びに来てくれた。

それにしても、あの熱気はすごい。アイドル・ブームの昨今だが、アイドルとはいえ生身の人間、わがままになってしまうし、追っかけがいてなんぼのものだろうが、下手するとストカーに追っかけられることもあるだろう。マネージャーさんの苦労を考えたら究極のアイドルは、バーチャルに行き着くというのはなんとなくわかる気がする。コストパフォーマンスもいいのだろう。

ところで、初音ミクが、チャリティコンサートでもやってくれたらいいのになあと思う。うちの場合は、歌って踊れるバーチャル・ナースのようなキャラクターを作れば、もう少しこういうイベントにも人が集まるかもしれない。

実は、イラクで頭を抱えているのが感染症対策だ。看護師を指導しなくてはいけないのだが、彼女たちにやる気がないのだ。医者は言う。「イラクでは、看護師は、職業としてさげすまれているところがあり、親たちも嫌がるんです」。そこで、実際に、何人かの看護師にインタビューをしてみた。「生きがい? そんなのないわね。最近仕事には慣れてきたから、毎日そつなくこなすだけよ」という。「イラクでは、高校の成績ですべてが決まり、大学に行くとか就職するのもすべて勝手に決められるの。大学に行けても学部を選ぶことはできないわ」とのこと。みんなやる気がないのである。日本だと子どものころから、「命を助けたい」という憧れの職業だというのに。

どうしたらやる気になるか。やはり、ナイチンゲールのようなヒロインでもいればわかりやすい。ナイチンゲールの絵本を訳して配ってみるかとも考えたが、今の時代、いっそ、バーチャルナースがいい。注射もうまく、感染症対策もばっちりできる。子どものころからこういうキャラクターに触れることで、立派な看護師になろうという志が芽生える。

さて、どんな名前がいいかなと頭を悩ませている。