ウイスキーの楽しみ

大野晋

ついでだったのだが、仙台に行く機会があり、前の月に立ち寄ったニッカウヰスキーの余市蒸留所に引き続き、ニッカの宮城工場、俗にいう宮城峡蒸溜所に行くことができた。

宮城峡は余市と同じように都会の仙台からずっと山寄りに入った山間地にある。しかし、湿地帯の余市と比べると森の中にある。本州の住民にとってはこちらの方が自然の中といった印象を受ける。工場の設備は一見して、手作業の残る余市と比べると自動化されており、こちらの方が大量生産に向いている印象を受けた。実は、原酒の印象も、いかにも癖のある余市に比べると宮城峡はどちらかというと癖の少ない印象を受ける。それがなにに由来するものか? 工程すべてのあり方にあるのかもしれない。どちらかというと、規模としては小さいのだけれど、サントリーの白州蒸溜所とよく似た印象を受ける。実際には、宮城峡の主流の原酒はピート燻蒸を行わないノンピートの大麦なので、その辺が香りの印象を左右しているのだろうが。

さて、いくつかの蒸留所を回り、いくらかの原酒に触れと思うのは、ウイスキーというのは非常に面白い飲み物だということである。まあ、シチュエーションに応じて、自分の好きなウイスキーをあけるので、全く構わないのだが、いくつかの予備知識があるとウイスキーが途端に近くに感じられて面白い。

例えば、ウイスキー独特の苦みともつかない燻蒸香はピートによる乾燥時の燻蒸に由来している。ピートはいろいろと呼び名があるようだが、泥炭という名前で呼ばれることもある。もともとは、過去のミズゴケや葦などの枯れたものが堆積して炭化したもので、日本などでは高層湿原などでよく見られる。ウイスキーの故郷のスコットランドは緯度の高い地域で、日本の北海道以北によく似た気候であるために、高い木が生えないため、この泥炭を燃料に使用したのがもともとの由来だと考えている。もともと多く生産できるものではなく、過去の蓄積を消費していたので、近年では自然破壊などの問題で生産量も限られると昔テレビか何かで見た覚えがある。

この貴重なピートを使用したもの、ピートを使用しないでピートの香りのしないもの、そして強くピートの香りを付けたものの三種類が原酒の仕込みに使われる。ピートの香りのしないものは軽く飲みやすく、ピートの強いものはウイスキー独特の香りがして癖が強いものになる。

次にウイスキーの風味を決定づける条件に樽がある。実はピート以外の香りのほとんどは樽由来の香りと言っても言い過ぎではない。樽には大きさ、素材、新しい樽なのか、それとも昔何かの熟成に使用した樽なのか、で違いがある。現在、最適といわれるのは北米産のホワイトオークの樽らしいが、そのほかにヨーロッパカシや日本のミズナラなども使われる。いちばん、樽の香りの強いのは新樽だが、他の酒の熟成に使用した樽も使われる。シェリー酒がその主なもので、他にバーボンの樽も利用される。ウイスキー以外の酒の樽を使用する場合は、主に香りづけが目的で、シェリー酒の樽を使用した原酒は甘い香りをまとうことになる。中には1種類の樽だけではなく、複数の樽を使用して、複雑な香りづけを目的に熟成される原酒もある。こういった前知識があると、例えば、原酒を飲んだ時に、その酒の樽や由来に思いをはせることができ、とても面白いと思う。

例えば、余市原酒の特徴的なカスク(樽)はピート香のする新樽のもので、新しい樽由来の木の香りを強く感じる。そのうえで、年数を経るに従い、アルコールのうちの揮発性の強いつんとくるものが減り、まろやかなアルコール感だけが残るが、頂点を過ぎるとおいしさは薄れ、酒の感じのしない木の香りの化け物になっていく。まあ、そんな化け物は蒸溜所は売ってくれないのだが。

こんな感じに香りを楽しみながら、自分にあった飲み方にあうウイスキーを選べばいいだろう。なんでもかんでも、年数が古いものが良いわけでもない。ちなみに、私は強いシェリーの香りが苦手である。強いお酒は、それほどの分量を飲まなくても楽しむことができる。夜の余韻を感じながら、強い原酒を水を片手に、ちびりちびりとやるのも楽しい。

新しい楽しみができたなあととくに感じる今日この頃である。