考えるのすすめ

大野晋

品質管理を専門にされていた東大の飯塚教授が定年退官される。研究者としては非常に脂がのりきる面白い年齢なのがもったいないのだが、先日、その退官を記念した会に参加してきた。ざっくばらんな会なので、いろいろな話ができて面白かったのだが、その中で、世の中で抽象化して考えられる人間とできない人間がいるらしいという話になった。私などは抽象化してしかわからない人間なので、ふむふむとは聞いていたが、抽象化技術が先天的なものだと言ってしまうとプログラマとしては、できない人間が切り捨てられてしまうので、「いやいや、最初はできなくてもある程度ならトレーニングでなんとかなるでしょう」と意見を述べておいた。まあ、それでも、絶対に向かない人というのはいるのだが。

そんな話をしながら、ここのところずっと考えてきたシステムについて考えてみた。システムは基本的には人間の形づくるありとあらゆる人工物の総称だと考えるとよい。社会学の一派では、一種の図式ができるとそれでできあがりみたいなシステム思考という分野があるのだが、これは図式が問題というよりも対象をいかに抽象化して考えられるかといった問題なのだと理解している。いわゆる飯塚教授式には先天的な才能なのだが、そういってしまうと終わってしまうので、ここではみんなができるものとして話を進めたい。

最近、おかしいと思ったもののひとつに、某国営放送局の放送料の契約というのがある。先日、家の呼び鈴が鳴るのででてみると、いきなり、「家の中を見せてください」とおかしなことを言ってくる。基本的に話の順番が違うので、誰かと問うと国営放送だという。衛星放送が見えるはずなので契約を変えて欲しいという。変えてもいいのだがまるで見ないのと、その前に訪問の応答がおかしいので、これはいわゆるなんとか詐欺の類ではないかと思い、けんもほろろにあしらってしまった。後で調べると、ずいぶんと契約変更に関するトラブルが多いらしい。

まあ、自分の名前と訪問理由を述べずに、いきなり家の中に入れろというとんでもない営業は置いとくとしても、基本的に衛星放送というもの、営業というものが理解できていないことに驚いた。営業は会社の顔であるはずで、それは顧客の直接の接点であるゆえに大切なのだ。私はまだ新入社員の頃、会社の外に出たら、会社の看板を背負っていると思って恥ずかしくない行動をしろと教え込まれたものだ。もし、契約だけとれればいいと思っているのなら、やがて、組織の存在意味を問われることになりかねないと思う。本来なら、営業活動に触れた人たち(訪問先や訪問で契約した先、もしくは新規に契約した受信契約者)にアンケートをとって営業品質の確保を図るべきだろう。これは、契約増強という問題について、単純にチャネル強化したからに違いなく、契約窓口というシステムを総合的にみられなかったからに違いない。そもそも、衛星放送というものについても一度意味を見つめなおすべきなのだと思う。当初は離島や山間部などにおける難視聴対策と意味があり、実験放送ということで高画質の放送を唯一行っていたので、一般契約者については高画質視聴のプレミアサービスとして考えればよかったかもしれないが、現在は地上波がデジタル化した関係で地上波でも高画質のテレビ放送を受信できるようになっているのだ。この状態で、プレミアサービスと言われて納得するユーザも少ないだろう。

ひとつ、システムを考え直してみてはどうだろうか? 衛星放送は実は海外で日本の放送が見られる手段だったりもする。実は海外では、放送契約なしで衛星放送が受信できる。そういうユーザがいる前提で、日本の基本的な放送手段として衛星放送を一番に据えて、むしろオプションのプレミアサービスとして地上波放送を考えたらどうだろうか?この方がむしろ切り替えに際して、スカッと行ったような気がするのだが?

まあ、とりあえず、きちんとしたシステム思考でものごとを考え直してみることを進めたい。そこには新しい世界が広がっているかもしれない。