意外かもしれないが、ヨルダンは、夏でも冷房を使うことはない。太陽はぎらぎらと照りつけるのだが、風は乾き、日陰には、ひんやりとした空気がとじこめられている。
ヨルダンの首都アンマンに、僕たちは、事務所を借りているのだが、バルコニーがやたらと広く、夏の間は、パーティーをするのにもってこい。そこで、レストランをオープンすることになった。シェフは近所に住んでいるイラク人のおばさん。子どもがガンで治療のためにイラクを逃げ出してきたのだが、お金がなくてこまっている。そこで、日本人の友人などに声をかけて、チャリティ・ディナーを行なっているのだ。「おいしいイラク料理が食えてビールものめる」そんな店はアンマンにはないのだ。イラク料理のお店は町にはあるが、ヨルダンはイスラム国なので、酒がでない。そのためか今までにも4、5回やって、好評。客は4、5人でも、毎回、2万円ほどカンパしてくれるので、イラク人にとっては、生活費の足しになる。
しかし、いつも同じメンバーが集まってくれて、NGO関係者なんかの安月給から、お金を集めるのも気の毒。日本大使や、商社などのもっと余裕のある人が、チャリティに参加しやすい催しものをと考えて、アラブの楽器ウードをBGMにと思いついた。そこで、ヨルダンの画廊に行けば、イラク人の芸術家が集まっているので、誰か紹介してもらおうとふらりと訪ねる。
しかし、残念なことに、なかなかボランティアでやってくれるミュージシャンがいなく、ヨルダン人の画廊のオーナーと話しているうちに話が盛り上がり、子どもたちが絵を描いてそれをチャリティオークションにかけようという話になった。その会場で、イラクのおばさんたちが、ちょっとしたたべものをケータリングすれば、日本大使なども来てくれるだろう。あるいは、イラク人のビジネスマン。これもとっぷりと稼いでいる人たちがたくさんアンマンに住んでいる。
早速、僕は、イラク人がやっている会社を回ってみた。しかし、なかなか、そういうチャリティには関心がないみたいで話がからみあわないのだ。
事務所のバルコニーが幼稚園のようになり、ガンの子どもたちが集まってくれた。イラク人の画家も指導に来てくれる。こどもたちは大騒ぎ。しかし、出来上がった作品をみるとにどれだけお金を払ってくれるかは疑問。売れるような感じにしようと私もいろいろ入れ知恵しているうちにどんどんひどくなって自己嫌悪。。
ガンの患者たちは、期待に胸を膨らませ「僕の絵がいくらで売れるのかなあ」と聞いてくる。
実は、同じようなイベントを1年前イラク人の画廊のオーナーが企画しイラクビジネス協会も協力したが、未だに絵が売れたのか売れていないのかも知らされていないという。画廊がネコババしたというより、売れないのだ。ともかくオークションに人が来てくれないと話にならないので事務所のカトーくんも、アンマンの新聞社とかを回って広報に勤める。幸い紹介の記事ものり、当日会場には、日本人の友人も含め40人くらい来てくれた。イラクのTVも三社取材にきて、一枚の絵に1000ドルをつけたビジネスマンもいて、10枚の絵は完売。なんと一夜にして5500ドルを集めることができたのである。
そして、イラクでTVを見たという医師から連絡が入る。
「今晩、アル・フラTVで絵画展のニュースを見ました。カトー君がアラビア語で一生懸命このプロジェクトの目的を説明し、如何に患者を助けようとしているかを語っていました。イラクの子どもたちに対する支援を本当にありがとうございます。本当に本当に、私たちは、イラクのためにイラク人以上に親切で、献身的にイラクを助けてくれているあなたたちに出会えました。」
正直、ここまでお金が集まるとは思わなかったので、驚きだ。図にのった私たちは、次はコンサートだ! イラク人のウードに合わせて、カトー君がアラビア語で詩を読む夕べを開催しよう! と大張きり。患者の家族たちもバスの中で和気あいあい。次に作るお菓子のことなどを話し合っているのだ。
世の中には2種類の金持ちがいることを痛感。まずは、本当にお金にしか感心のない人、そして、お金に執着はないものの金儲けの才能がある人だ。前者は、本当に!ビジネスの話にしか関心がなく取り付く島もない。後者は画廊のオーナーのように、ビジネスで稼いだ分で芸術家を育てたり、人道支援に寄付をしたりしている。後者の友達がたくさん増えるとうれしい。国際貢献のための軍隊の派遣とかが言われる昨今だが、お金をかけるよりも、日本大使とか外交官の現場でのチャリティ参加も実は大切。お歴々には他の国と比べ恥ずかしくないような立ち居振る舞いを期待したい。