ドラマ『オトメン(乙男)』面白いですね! 毎週欠かさず見ています。そういえばこういうことあったなあ、とか、やけにかわいい系の男の子に慕われることが多かったなあ、とかそういう昔のことを思い出しながら、一視聴者として楽しんでおります。
我々オトメンはあのような感じの生き物なのですが、やはり個人差というものもあるわけで、たとえば私はお化けとか幽霊とかが全然怖くありません。妖怪とか怪物とか宇宙人とか、とにかくオカルトといったものが(あくまでも娯楽として)大好きです。昔から怖い映画も平気で(むしろ笑いながら)見ていて、しかも絶叫マシンなんかに乗っても基本は笑ってます。ジェットコースターで大爆笑する人です。そんでもって一日じゅう乗り倒して、最終的には三半規管がおかしくなってホテルでぐったりするようなそんな感じ。
お化け屋敷は別ですよ、あれは怖がらせるものじゃなくて、びっくりさせるものです。驚かされたらさすがにあわてるんですが、それは幽霊とかお化けが怖いとはまた違うものじゃないですか。あくまでもびっくりしているのであって、怖いのではないのです。
ともかく、私はお仕事としては童話の翻訳やらホラーの翻訳やらをしているわけですが、よくよく考えてみればどちらもいわゆるフェアリーテイルなのです。ほんわかした妖精も、おぞましい怪物も、突き詰めればどっちもフェアリーですし、童話だって時に残酷なお話があるように、ホラーだって時に切ないものや愉快なものもあります。
私のなかではそのふたつに差はなくて、というか、私にとっての三大童話作家は、アンデルセンとグリムとラヴクラフトなのです! アンデルセン童話・グリム童話などと呼ばれるように、クトゥルー神話などもラヴクラフト童話と呼ばれてもいいのではないかと思うのです。神話に出てくる怪物たちのかわいいぬいぐるみだってありますし。ポニョのぬいぐるみと並べてもまったく違和感がありませんよ!(むしろポニョの方が怖いです。あれは本物の恐怖だよ、と周囲の人に力説するもあまり理解してもらえず。こちらを参照。)
当人も幼少の頃、童話などをよく読んでいたといいますし、作品もどこか子どもの見る悪夢じみたところがありますからね。あんまり言い過ぎると怒られるかもしれませんが、実際、少年少女向けの文庫で数社から出ていたりもします。今思い出してみれば、あのあたりのラインナップって相当変でした。特にSFとかミステリとかホラー方面で。ラヴクラフトだけじゃなくて、ディックとかレ・ファニュとかポリドリとかあったし、あれはポプラ社や金の星社、岩崎書店あとあかね書房でしたか、その節は非常にお世話になりました。
「童話」と言いますか「ジュヴナイル」というものは、言い切ったもの勝ちみたいなところもありまして、翻訳の仕方次第(文体次第)で何でも化けさせることができてしまう、不思議な不思議なくくりであったように思います。これって翻訳の魔法のひとつですよね。私が「朗読向け」として使う文体には、このあたりの本の影響が多々あります。白木茂さんや南洋一郎さん、亀山龍樹さんや久米元一さん、那須辰造さん――下手な逐語訳・完訳よりもずっと面白かったんです。
純文学も大衆文学もSFもホラーもミステリも何もかもがいっしょくたになるある種の「翻訳ジュヴナイル」という枠がかつてあったことは、のちにもっと勝手放題な「ライトノベル」という枠が育っていくことにもつながるのだと思いますが、それは別の話として。
私も最近はオトメンらしく、手すさびというか手あそびというか手なぐさみというか、児童文学を書いてみたりしていたりするわけなんですがもにょもにょ。あまり大声では言わないんですけどね。書いては気に入らず破り、書いては棄てというようなことを繰り返しているのですが、たまに知ってる人に内緒で読んでくださいというような感じで渡すこともあり。
翻訳だと結構人様に見せられるというか、そもそも人と人をつなぐためのものなのでおおっぴらに公開しても全然大丈夫なんですが、オリジナルなものっていうのはどうしても私的で、個人的なつながりのある「読みたい」と思っている人に渡すような側面があるように思っていまして、ほら、気恥ずかしいじゃないですか、何かそういうのって。
だからブログはかなり苦手で(毎日プライヴェートのことを書くとか絶対無理!)、SNSはちょっとはマシですけど......って、そういうことを考えてるからオトメンって言われるんでしょうけど。そこのところは「カフカみたいだね」と言ってもらった方がまだいいかも。私はカフカの翻訳もしましたけど、正直、未出版の草稿から翻訳されているものを見ると「お願い、やめてあげて!」と同情みたいなものを感じてしまいます。
けれども書いたものをおずおずと友人に差し出すカフカもわかるので、出版されたものは翻訳しちゃうんですけど。喜んでくれる人が目に見える形で何かを書きたいんでしょうね、きっと。翻訳はそのお手伝い、かな。