葉をすっかり落として
折り重なる枝々を透かして
あかね色に染まる空が見える
だれもいない夕暮れを歩くと
鳴き交わす鴉の声が聞こえる
と思うまもなく
翼を広げた影が
ゆうゆうと道を横切っていく
裸木の枝で鳴いていたのは
途方もない災厄の年を送る
ゆく年の鴉だろうか
くる年の命運を告げる
カッサンドラの鴉だろうか
空は刻々と翳り
そびえる建物の輪郭が
夕闇に溶けて
かわたれどきがやってくると
心はふたたび
遠い記憶へまよいこむ
あかねぐも
それは父の歌集の名前だったか
かの人の詩のことばだったか
まだ生まれぬきみが
祭り囃子を聞きながら握りしめた
わたあめの色だったか
溶けてしまった夢の糸は
赤道をまたぐ羽衣となって
乾いた黄褐色の樹木の先の
熱波にしおれた葉群れに絡み
火のなかに輪を描きながら
きみが愛することばの連なり
紡いだ人の黄色い納屋へ向かう
両半球に散らばる
熟成期に入ったことばたちは
いま粉飾をそぎ落とされた
言語に変換されて
きみの内部に降りつもり
埋み火のように暖め
暗い時代に向かう道を かすかに
かすかに照らしだす
夢のような
雪はまだか
かわたれどきの
小暗い道で
いずれ生まれる
まだ見ぬ人が読む
夢のような
雪にほおずりする