夜の空 蛙の声

最近、よく、星を見にいく。星の写真を撮るひとについていって、わたしはその傍らで遊んでいる。

このまえは、山に囲まれた田んぼだらけのあぜ道へ。あたりが薄暗くなって、青味がかっていく森を眺めていると、現実の世界と切り離されたような気持ちになる。そよ風も冷たくなっていく。

すっかり暗くなると、山はぼんやり闇のなかに浮かび、空には星がぽつぽつと顔を出しはじめる。明るい星に気を取られている間に、星たちはどんどん姿をあらわす。そんな暗いなかでなにをして遊んでいるかというと、やはり空をながめている。星座を探しておぼえたり、すこし飽きたら蛙の声を聞いたり、みみずを観察したり、道をうろうろ歩いたり、石を拾ったり、遠くを見つめたり、いろいろなことを考えたりする。

詩のようなものも浮かべば、鼻歌もうたうし、たまにいやなことも思い出す。こんな綺麗な場所にきても、考えることでとても忙しい。

それでも、田んぼに映る山と星空には、呆然と見惚れる。ここでつくられたお米は美味しいにちがいない。たくさんの酸素やその土地の、見えない霧のような氣を取り込んで育つ作物は、遠い場所で、誰かの胃袋にはいっていくのだろう。

蛙や虫の声がいっそう大きくなって、あんがい賑やかな夜の道で、田んぼに映った星空を眺める。火星が明るい。このひとときは、わたしの持っている長い時間のなかの、大事なかたまりだ。

街の中を歩いているとき、ふと思う。いま、この瞬間、あの田んぼに映る空はどんな表情をしているか。辺りはどんな情景だろうか。想像する。


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