草津温泉

笠井瑞丈

車で草津温泉に向かう
夕方の高速を車を走せ
突然の雨で湿った山道

心地よい森の匂いを感じながら

今まで

鬼怒川温泉
水上温泉
銀山温泉

色々な温泉街を
巡ってはいるが

草津温泉は
一番好きな温泉街である

それは

草津温泉には
特別な思い出が

高校生の頃
夏の住み込みのアルバイト
草津温泉でしたことがある
ベットメイキングの募集で
友達四人で応募した

書類だけで無事採用が決まり
ドキドキしながら電車に乗って
草津温泉に向かった事を覚えている

初めての土地
初めての仕事

もし途中で嫌になったら
どうしようとかという不安

ホテルの事務所に着く

なぜか

僕だけ違う仕事に就かされた
三人はベットメイキング
僕はアパート型別荘の管理人の手伝い

多分僕だけ茶髪だったので
見た目が悪かったのだと思う

仕事時間も他の三人と違い
朝から夕方までの仕事

夜は完全にオフだった

他の三人は
朝仕事に行き
昼間はお休みで
夜仕事に行く

なので朝に顔を合わせるだけとなった
三人はいつも共通の話題で盛り上がり
いつも楽しそうにしているのを横目に
僕だけ仲間はずれとなった気分だった

オフの時間を
楽しもうという目的で
東京からはなれた草津に
住み込みのアルバイトを
四人で応募したのに

僕はいつも一人だった

夜は一人で湯畑に行き高校生だったが
ビールを片手に寂れたパチンコ屋で
パチンコを一人打って時間を潰したり
街をぷらぷら散歩をしたりした

ドキドキした初出勤日
上司にあたる管理人の
おじさんに挨拶をする
そしてその時たまたま通った
居住者に「おはようございます」と
僕は挨拶をした

まだ仕事の指導を受ける前に
たまたま通った居住者に挨拶した行動を
なぜかおじさんはすごく評価してくれて
僕のことをすごく気に入ってくれた

挨拶なんて当たり前のことだが

きっと茶髪だし見た目もあまり良くなかったので
変な若者が来たなと思ったのだと思う
なのであまり期待もしてなかったのに

挨拶できたことにビックリしたんだと思う

僕の仕事は

決められた時間に

玄関の掃除
お風呂の脱衣所の掃除
各階の廊下掃除
自動販売機の補充

それ以外の仕事はとくになく

時間を持て余す事が多々
なので仕事は管理人室でおじさんと
お話をする時間が多くを占めてた
本当にたくさんの事を教わった

これで給料をもらってもよいのかと
少し悪い気持ちになるくらいだった

昼食はいつも出前を
その支払いもいつも
おじさんがしてくれた

一度夕飯にも招待してくれた事もあった

なぜおじさんが僕の事をあれだけ
気に入ってくれたのか分からないけど
本当の息子のように面倒見てくれた

仕事のことで注意を受けることはあったが
一度も声を荒げて注意を受けたことはなかった

住み込みの期間が終わり
翌年に一度だけおじさんに会いに
草津温泉に訪れたことがある

本当にとても喜んでくれた

おじさんに会ったのはそれが最後だ

あの時間は僕にとって
貴重な時間だったと
たまにふと思い出す

もしいまおじさんにあえたら

心からありがとうと
今は伝えたい