「難民ってカッコイイ」? とてもきわどいキャッチコピーがUNHCRから回ってきた。難民ってかわいそう、難民支援って大変そう。そんなイメージを覆そうという意図だという。
「難民って、難民支援ってカッコイイ」
そんなこと言われたってやっぱり戸惑う。現場で難民と接していると、「カッコイイ」という表現は似つかないし、ふざけんなよと言いたい気持ちもある。案の定、ミクシィとかでは炎上しているそうだ。
イラク戦争で難民になり、隣国ヨルダンで難民生活を送るハニーンは、11歳。卵巣がんを患っている。父は、難民なので、ヨルダンでの就労は禁止されている。ヨルダンの医療保険制度も難民には適用されないから、治療費が払えず、病院にもいけないまま、がんは進行していた。スマイル子どもクリニックの加藤ユカリ先生が、彼女を救いたいと言い出した。
「いくらかかるか知ってますか?」
「20%しか助からないということは、まず死ぬでしょう」
「その金があったら他にも助かる子どもがいる。」
「でも出会ってしまったからには、この命を助けたい」葛藤が続く。
「100人いたら20人は助かるんだ。そこにかけてみよう」
ハニーンは、絵を描くのが大好き。絵描きになりたいという。しかし、集中して描く事ができない。がんが大きくなって膀胱を圧迫し、一時間に何度もトイレに行く。弱りきった彼女にはトイレの扉も重たすぎて自分では開けられないのだ。私は今年の一月、タキに連れられて、病院にお見舞いに行った。病院には支払われるはずの治療費が滞り、病院側は、身代わりにタキのパスポートを取り上げてしまった。
「私は、日本に帰れなくなってしまいましたよ」と冗談を言っていたが、弱っていくハニーンを見るのはつらい仕事だ。
「募金キャンペーンに使う絵を描いてほしいな」とお願いすると、とってもうれしそうな顔をした。抗がん剤のせいか髪の毛は抜け落ち、鉛筆を握る手先の皮膚はぼろぼろになっていた。それでも、力強く線をつなげていく。「私、生きているわよ」と主張していた。出来上がった絵を見せて、「気に入った?」と微笑む。私たちは、大満足だった。
数日して、ハニーンは、息を引き取った。あの時彼女は、壮絶な痛みや苦しみに耐えていたのだった。それでも、絵を描くことで、役に立ちたいという気持ちが、あんなにすてきな微笑みを産んだのだ。
彼女が死んだとき、タキは、しばらく、ふさぎこんでいた。そうなるのは最初からわかっていた。後日、「あの時は、アラビア語なんか勉強するんじゃなかった。彼女や家族の苦しむ言葉なんか聴きたくなかったのです」といっていた。
タキの仕事はイラクにくすりを送り出さなくてはいけない。それをまっている子どもたちがたくさんいるからだ。僕たちは悲しいからと言って立ち止まってはいけないのだ。ハニーンがそんなこと許してくれないだろう。だから、今年の「限りなき義理の愛大作戦」のチョコレートのパッケージにはハニーンの書いてくれた絵を使った。
ぼろぼろになってチョコを売り、支援を続ける僕たちにやっぱりカッコイイという言葉は似合わない。
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