237 言霊の力

藤井貞和

土の塊のような無表情の一少年が、促されて詩を書いたという。
 ぼくの好きな色は
 青色です。
 つぎに好きな色は
 赤色です。
と。褒めようがなくて、奈良少年刑務所で詩を指導する寮美千子さんは困った。
すると、一人が立ちあがり、
「ぼくはAくんの好きな色を一つだけやなくて二つも聞けてよかったです。」
もう一人が、「はいっ、ぼくも同じです。Aくんの好きな色を一つだけやなくて、
二つも教えてもらってうれしかったです。」
なんてやさしい子供たちだろう、そんな褒め方があるなんて、と寮さん。

(このはなしには続きがある。もう一人が立ち上がる。「はいっ。ぼくはAくんがほんまに青と赤とが好きなんやなあと思いました」。その時、土の塊のように無表情のAくんが笑ったのだ。寮さんは脳天に鉄槌をくらわされたような気がした。これはたしかに「詩」なのだ、と。「座」の力、ということでもあろう。「詩」と受け止めてくれる人がいれば、それはもう、この現実を変える力を持つほどの「言霊」を持つことになる、と。)