パレスチナから愛を込めて

さとうまき

実は来月に手術をすることになった。その昔、バリウムを飲んで胃の検査をしたら突起物が胃にできていた。あ、これはがんかもしれない。死ぬ前にやりたいことをやった方がいいと大袈裟に考えた僕は会社を辞めてパレスチナで暮らすことにした。それが1996年のこと。

と言うのも当時の胃カメラは、ふっとくって、これを自力でごっくんと飲み込まねばならぬ。もう死ぬ。と言う思いをして、細胞検査は、悪性ではなかったのだが、経過観察のために毎年カメラ飲みましょうと言われ、もう死ぬ。と思ったのだ。それで2019年まで放置しておいて流石にそろそろやらねばと思い切って鼻から入れるやつをやって見たら意外と楽だった。「20年以上、放置してあなたは生きてるわけですから、結果的に悪性ではなかったということです。経過観察しましょう」ただ、鼻から入れるのも嫌なものである。気づくと6年経っていた。

この歳になると高血圧の薬を飲んで、最近では睡眠時無呼吸症候群の為の治療もしているのだが、最近吐き気がする。と相談したら 「それは、大変。すぐにカメラを飲みましょう。」と言うことになった。しかし「うちでは鼻はやってません。口からです。口がいやならよそでやってください。さあ、うちでやるか、やらないか」と言う。医者の圧には逆らえない。渋々検査を受けた。それが、嘘の様に楽だった。すっと入って、あれ?という間に終わってしまった。自分の弱みを克服し、何か突破した様な喜びに湧き立つ。僕は勝ったのだ、人生の勝ち組に仲間入りだ。しかし、腫瘍は思いの外、成長していた。医者は、切りましょうと、やるきまんまんだ。この圧には逆らえず、成り行きで切ることになった。

さらにレベルアップした突破感に僕は酔いしれる事ができる。自己啓発セミナーってこんな感じか? とはいえ大袈裟に考える僕は死ぬ前にやりたいことをやっておこうと旅に出ることにした。一箇所行きたいところを思い浮かべた。

そして選んだ地はパレスチナだった。ん?なんだかこれは原点に戻って来た感じがする。しかし、パレスチナとイスラエルは、ご存知の様にややこしい状況になっている。パレスチナに行くためにはイスラエルに入国しなければならない。占領地パレスチナにはまだ外交権がないのだ。ともかく僕のちっぽけなスーツケースには、睡眠時無呼吸症候群の治療の器具そして血圧計、常備薬が占めることになった。こんなもの持ち歩く旅も初めてだ。医者は手術前のデータを欲しがるのでこんなへんてこりんな荷物を持ち歩いての旅になってしまった。

とりあえず、無事にイスラエルに入国。さあこれからどうする? 成り行き任せの旅が始まった。