大きな地震があって、原発事故が起こった。たくさんの人が亡くなったり、行方不明になったりして、日本全体が大きな打撃を受け、その影響は収束するどころか、より大きく深刻になっているように思える。
地震が起こったのが金曜日だった。帰宅難民になった社員を自宅に泊めたりして、当日と土曜日が慌ただしく過ぎていった。そして、日曜日。ただニュースを眺めているのも辛くなり、家族揃って出かけることにした。時折余震を感じる中、はっきりとした行く当てもなく浅草へ。ときどき建設中のスカイツリーの写真を撮って送ってくれ、と僕の父親が孫である僕の息子に頼んでいたことを思い出したのだった。
浅草界隈からスカイツリーの写真を何枚か撮ると、あとは浅草寺へお詣り。正月に大吉を引いたからもうやらない、という嫁さんをのぞく家族全員でおみくじを引く。僕と長女と長男の三人だ。リーマンショック以来、最低な会社の売上。一昨日起こった地震。神頼みで何とかなるとも思えない状況でおみくじを引くといったい何が出るのかという妙な好奇心もあった。
結果は、凶、凶、凶。三人が三人とも凶。なんだこれは!と肩を落とす三人。それを見ながら、今が底っていう意味なのよ!笑う嫁さん。一通り中身を読むこともせずにそばにあった枝におみくじを恐る恐るくくりつけると、しっかりと手を合わせて家内安全を願う。
もちろん、二カ月後に僕が入院して手術を受けるなんてことは、その時には誰も想像していなかった。逆に、誰かに災いがなければいいが、くらいの気持ちだったのだが……。
しかし、ここまで露骨になってくると、虫の知らせという雰囲気ではない。一時期のハリウッドのホラー映画にあったような「警告」みたいだ。ほら、主人公の家の前になんかが捨ててあるとか。歩いていると目の前の壁が崩れてくるとか。ああいった感じ。何かを教えてくれている、というよりは暴力的なまでに伝えようとする感じがする。
おかげで僕は病院に行って検査をして、無事に入院し治療を受け退院することが出来た。本当に人生何が起こるかわからない、という感じだ。実はこれ以外にもいろいろ僕に今回の事態を教えてくれようとする予兆のようなものがあったのだが、あまりに並べすぎると、全部が嘘くさくなるので割愛する。スチュアート・ローゼンバーグ監督の「悪魔の棲む家」でも、びっくりするような激しい出来事は嘘くさくなるので割愛したと書いてあるのを見た気がする。それにあやかろう。僕はスチュアート・ローゼンバーグという監督が好きなのだ。
どちらにしても、虫の知らせで僕は助かった気がする。いつもはそんなことあるんだろうか、と言っているのに、なんだかムシのいい話なのだが……。