ジム子の受難とデモクラシー

さとうまき

我々の団体のゆるキャラがジム子ちゃんだ。ロゴマークにもなっている看護師さん。この看護師の絵は、2002年に私がイラクに行ったときに、バグダッドの子どもセンターにはってあったものから使わせてもらった。

ちょうどその時、サダム・フセイン大統領の信任投票があった。子どもたちは、選挙投票のキャンペーンなのか、偉大なる、リーダーにYES! といった絵を描かされていた。左からイラクのおばさんと看護師さん、兵隊さんが、YESと書かれた紙を持って投票しているという絵。

中東のデモクラシーは、独裁者の支持率ではかるそうだ。この時、サダム・フセインは100%の支持率だった。ちなみに、シリアのハーフェズ・アサド(現大統領の父)は、5期にわたり信任投票を経たが、いずれも99%台で、最高が99.98%を記録したものの、サダムには及ばない。息子のバッシャールに至っては、2度の信任投票で97%台。内戦が激化した2014年の選挙では、3人の候補者になったために89%の得票率になった。いかにサダム・フセインの独裁度が高いかである。

さて、2003年4月、アメリカの軍事作戦が開始され、サダム政権が崩壊した直後、バグダッドを再訪した。子どもセンターの壁に会った絵は、はがされ、燃やされていた。あれだけ一生けん命描いたのに。子どもの気持ちは複雑だろう。もう、サダムもいなくなった。看護師さんは、自らの意思で、YESといえるそんな時代が来ることを願って、写真にとっておいた絵をデザインしてロゴマークにしたのだ。

さて、この看護師さんはいつの間にかジム子ちゃんという名がつけられ、サポーターの方がわざわざ人形を作ってくださった。当時は、人形を見たスタッフ全員が、「すごい!」と歓喜の声をあげた。

一時は、守護神ともあがめたてられたジム子ちゃん人形だったが、イラク戦争から12年もたつとすっかり忘れ去られ、狭い事務所でまるで邪魔者扱い。ロゴマークの看護師さんだと気が付かない人も多い。この間は、売り物のネックレスを首に巻かれていたが、なんとなく、鎖で巻かれて拷問を受けているように見えてしまった。そして、こないだは、ジム子ちゃん、足を滑らせ棚から落ちてしまったのだが、運悪いことに、ごみ箱の中に落ちてしまったのだ。ごみ当番のスタッフは、古い人形を誰かが捨てたものだと思ってしまうところだった。

靴も丁寧に作ってもらっていたのだが、よく見ると片方はカビが生えている。ちょうど、家にクルド人が履く伝統的な網靴のミニチュア携帯ストラップがあったのでこれをはかせてみた。見違えるようによくなり、もっと大切にしなければと反省する。ジム子ちゃんは、デモクラシーのシンボルなのだ。今の日本には、最も必要なものなのだ。