アジアのごはん(103)インドの新型コロナとベチバー

森下ヒバリ

長い梅雨がやっと明けた。久しぶりの青い空だ。シーツを洗って、カバーも洗ってとウキウキだ。しかし、今日からもう8月である。梅雨が明けるように新型コロナ感染症の流行も終わってくれればいいのに。

外国はおろか、国内の移動さえままならないとは、だれがこんな事態を自分のこととして考えていただろうか。感染症のパンデミックはずっといつか起こる、起こると予測されていたのに、人間というのは本当におろかなんだな。もちろん自分も含めて。

ワタクシの場合は連れと1月末からマレーシアを経由して南インドを訪ねていた。クアラルンプールを発つとき武漢閉鎖を知ったが、サーズの時のように地域的なものだろうとタカをくくっていた。インド東海岸のチェンナイ空港も誰一人としてマスクをしていなかった。

マドゥライを経てインド西海岸のケララ州にたどり着いたとき、インドで初めて感染者が出た。しかもケララ州アレッピー。これから行くところである。聞くと、武漢で看護学校に留学していた学生が帰国し、3人が陽性となったとのこと。そのまま入院隔離されているとのことで、アレッピーに行っても問題はなさそうだった。

お気楽に南インドを堪能し、2月の後半になってから日本のダイアモンド・プリンセス号の感染が報道されるようになって、食堂などでテレビニュースが流れていると、ちょっと肩身が狭くなってきた。その頃南インドに来た友人は「コロナ、コロナ」とさかんに揶揄されたとのことだが、ヒバリはたった一度小学生に言われただけである。

インドは、西欧と同じく、マスクは病気の人がするものなので、砂ぼこりを避けるためにマスクをしようとする連れを「お願いだからやめて」と真剣に押しとどめるようになったのもこの頃である。フランス人などの観光客も多かった。アジア人を見る目つきがいやそうな白人旅行者も現れるようになった。

2月末に予定通りタイに移動するか、日本に戻るかインドで考えた。しかし、タイは日本より感染者数も格段に少なく、死者も2人ぐらいでむしろ日本より安全ではないか。バンコクに予定通り飛ぶことにして、コーチン空港に行くとさすがに検疫官や出入国管理官たちはマスクをしていた。街中でマスク姿を見たのは、明らかに風邪をひいていたリキシャのお兄ちゃんたった一人であったが。

そして、インドを出発した3日後、インド政府は3人の感染者が5人に増えた時点で、インドビザの無効を発表する。新規の外国からの入国をお断りするという措置である。さすが、強権国家やることが大胆な、と思っていたが、その後のインドの感染状況はすさまじく、現在は感染者累計163万8000人、死者3万5747人になっている。

2月末のタイは、中国からの観光客が日本よりもさらに多いお国柄のため、日本よりもはやく流行が始まったが、あまり感染は広がらなかった。しかし、外出にはマスクが必須となり、人混みにはあまり出て行かないように気をつけた。空港や飛行機、バスなどが危険と思われたので、どこにも行かず、バンコク引きこもり生活。

3月半ばを過ぎると、帰りの飛行機のキャンセルが何度も出て右往左往した。けっきょくエアアジアは16日で国際便をすべて止めた。なんとか別会社の便を取って3月21日に関西に戻ってきたが、成田行きは21日でもう終了、関西行も2日後に一便飛ぶだけで終了という、けっこうギリギリな帰国であった。そして、22日からバンコクはロックダウンされたのであった。

コロナ禍を縫うような旅であったが、まだインドに居るときはあまり気にせず旅を続けられたのは幸いだった。ケララ州のフォートコーチンにゆるゆると滞在していたが、最後の日の散歩ではじめてオーガニックショップを見つけることができた。同じときにフォートコーチンに滞在していた友達が、自分の宿の近所にそれらしきものがあった、と教えてくれたのである。

大きな道路から海の方に入った路地の奥に、ちょっと外国人旅行者向けのこじゃれた食堂と、オーガニック食品・雑貨の店があり、店にはケララの伝統発酵食の塩辛、カツオのふりかけもあった。味見したら、日本のカツオのふりかけそのもの。そして、精油のコーナーがあったので、そうだインドはベチバーの原産国ではないかと思い出し、訊ねると、あるよあるよとベチバーの精油を出してきてくれた。

ベチバーはVetiverとつづり、イネ科の多年草である。まだ実物は見たことはないけど、レモングラスやすすきに似た葉っぱを持つ。根っこが精油成分をもちインドでは古くから虫除けや香料として使われてきた。

そう、ベチバーは実はダニ除けに素晴らしく効果があるのである。昨年から京都の家にダニが出現し、かゆくてたまらなかったので、ダニ取りシートを盛んに使っていたが効果はあまり感じられない。悩みの種だったところ、ふとベチバーオイルがゴキ退治によいという話をネットで見つけ、読んでいるとダニ除けにも効くという。

なに!さっそくベチバーオイルをネットで購入し、アルコールで希釈液を作り、そのベチバースプレーを足にシュッ。すると、足のかゆみがするすると消えた。すばらしいぞ!そして、いつも使っている床掃除のアルカリ電解水シートにスプレーし、毎日床掃除をすることにした。

その効果のほどは、手足にスプレーすると即効で効くものの、家全体のダニを退治するにはなかなか時間がかかった。けれども、1年後のいま、確実に半減以下。そして、意図してなかったけど、ゴキちゃんもいなくなった〜。というわけで、わが家では今ベチバーオイルは欠かせないのである。

ベチバースプレーを作る場合、エタノールの濃度がコロナウイルスに効くほど高くなくてよい。むしろ、肌が荒れるので濃度は低くていい。濃いのは水で薄めて下さい。エタノールは、ベチバーオイルを薄めるために必須。消毒用の高濃度のエタノールは品薄で高いが、濃度の低いのは出回っているので、それを使えば水で薄めなくても。ただ、イソプロピルアルコールIPAは人体にめっちゃ悪いので、使わないでね。

 浄化した水またはミネラルウオーター100ml
 消毒用エタノール10〜20ml (濃度の低いアルコールは量を増やす)
 ベチバー精油10滴
 
これらをガラス瓶か、アルコール耐性のプラスチックスプレーボトルに入れ、よく振って混ぜる。白く濁っても問題なし。

気になる匂いですがじつはヒバリはこのベチバーの匂いが大好き。大地を感じさせる、ほのかに甘く、スモーキーな香り。多くの香水のベースメントに使われるというが、香水臭くはないのでだいじょうぶ。

虫除けとして、精油や煮出し汁を使うだけでなく、根っこをぶらさげておいたりもするらしい。ケララのフォートコーチンのミニスーパーで細い植物の茎みたいなもので編んだタワシ状のものを売っており、エコなタワシかと思っていたら、それがベチバーの根っこの虫除け&香りボールだった。次に行ったらそれを買おう、と楽しみにしていたのに、いったいいつ行けるのだろう‥。