むもーままめ(14)新年リセットボタンの巻

工藤あかね

年末年始の独特な雰囲気が好きでもあれば嫌いでもあるのはクリスマスまでの浮かれた街の雰囲気が26日になると急に楚々とした感じになって街角には門松なんか立っちゃって正月飾りなんか玄関に飾っちゃってそれでもクリスマスリースと区別のつかない飾りを見ると安心したりするけれど何が嬉しいって大通りの車の数が急に減って空気が澄んだ感じがすることもしかして気温が低いせいかもしれないよねでも星がよく見えるしヴィーナス空がちゃんと青くてときどき赤紫でぜんぶなんとなく灰色がかっていておごそかな感じがするのがわるくない年末で一番いいのは大晦日なのだってなんにもしなくても許される気がするから逆に働けば特別えらい一年の締めくくりで達成感あるよねせっかくリセットしても次の日はちゃんと新年がやってきて1月1日になるとまたみんな生きてゆかねばならないのだからせめていつもよりちょっといいお酒を飲んで酔っ払ったままあたらしい海に漕ぎ出してゆきたいカモメが飛んでいる黒いね一羽だね動物と話したい猫の耳の三角形の先っちょをつんつんしてくすぐったそうにする顔を眺めながら水でもいいから飲んでいたいこの間はみんなが真面目な資本論について語っていた時わたしのバッグに入っていたのはマゾッホの小説でいつもおせちを何品か作るところを今年はあきらめて買うことにしたの少しづついろいろなものを食べられるから助かるね作って売ってくれた人ありがとうおいしくいただきますね夫は一年に一度しか触らないコンサーティナでバッハの練習をしだしてつっかえつっかえの演奏会が余興みたいでたのしくてこの間家にある一番いいお酒を飲んだと思っていたらそれが冷蔵庫に残っていてびっくり仰天してその日に撮った写真を見たらうちに置いてあった三番目に高いお酒だったあれわたしもだいぶヤキがまわったねだから一番いいお酒が残ってるそれともうちにはもうないふりして3月ごろにとぼけて味わうのもいいな家の片付けをしていたらもう使わない定期入れにちっちゃく折りたたんだ緊急用の一万円札が入っていた今すでにかなり忘れっぽいから3ヶ月後には今よりも3ヶ月分忘れっぽくなっているはずああ楽しみ忘れるの楽しいわすれたら覚え直すから覚え直すの楽しいゼロからやり直せるからうれしいリセットボタンを押してやり直せる新年は1月10日からにしようかな1月9日にリセットボタン押して10日から再起動するのもいいよねそれなら6月でも11月でもいいのかそうしたら一年中いつでもリセットできるねお得だねでもみんな一斉再起動もお祭りみたいで楽しいねそうかそれが大晦日と新年なのかなそうしたらまた産まれ直せるのだなそうしたら今日は産まれたての赤ちゃんのつもりで好き勝手やらせていただこう