11月某日 大阪からやってきた臨床哲学者・西川勝さんと東京・六本木の国立新美術館の日展会場で待ち合わせ。西川さんのエッセイ集『臨床哲学への歩み』(ハザ)を読みながら、電車で会場へ向かう。
日展で画家・本宮氷さんの絵画作品「吐息」が入選し、そのモデルを西川さんが務めたのだった。大阪・釜ヶ崎で哲学の会という活動を行う西川さんの精悍な肖像画。絵の前で西川さん、本宮さん、友人の宇野澤昌樹さんと会う。鑑賞後、美術館のカフェでおしゃべり。現在の西川さんは病気を抱えて杖をついているが、まだまだ元気だ。やりたいことも考えたいこともたくさんあるようで、上機嫌でしゃべりつづけていた。宇野澤さんからはZINE『Laughter そとあそびの進化論』(古書自由・ツチノコ珈琲)をプレゼントしてもらう。宇野澤さんのエッセイ「手仕事の文学」を読み、土田昇『職人の近代』(みすず書房)という本のことを知った。このZINEには作家・編集者の友田とんさんも寄稿している。
11月某日 長野の松本PARCOで開催されたALPSCITY BOOK PARADEにサウダージ・ブックスとして出店。はじめましての方や長年の本の読者の方とゆっくり話すことができた。編集出版事務所エクリのブースで、『木林文庫』(勝本みつる・須山実・落合佐喜世)という冊子を買う。
このイベントに誘ってくれたのは、松本の書店・喫茶店、栞日を営む菊地徹さん。翌朝、栞日を訪問。お店は午前7時からオープンしており、早くから大勢のお客さんでにぎわっている。窓際の座席で、おいしいコーヒーとトーストをいただいた。2階の書店スペースで、松村諒さん『ユアランド 短歌・カイエ・音源』(湧水出版)を見つけて購入。装丁は惣田紗希さん。
11月某日 松本では本・中川も訪問。書店に併設されたギャラリーで絵描き・絵本描きの阿部海太さんの個展 「ことばのうぶ毛」 を鑑賞し、今成哲夫さんのうたと電子ピアノの演奏によるオープニングライブに参加。音楽に合わせて、阿部さんが電燈で絵画を照らす。揺れる光、色、音、声、静かな時間。
11月某日 自宅事務所でオンライン・ミーティング。今月、サウダージ・ブックス内のレーベル、トランジスター・プレスからミシマショウジさんの詩集『茸の耳、鯨の耳』を刊行し、自分たちの出版社からリリースした詩の本が10冊になった。これを機に、来年から仲間とともに「詩の教室」(仮)をはじめようと計画している。
11月某日 三重・津のコミュニティハウスひびうたで2日間開催された「ひびフェス2024」のマルシェに出店し、詩の本を中心に販売。「本作ってるの? すごーい!」と地元の子どもたちから声をかけてもらい、元気が出た。
マルシェでは、世界ふるまい珈琲協会の写真集『WITH COFFEE, THE WORLD IS ONE』を入手。A4判リソグラフ印刷のクラフト感のある本。世界で珈琲をふるまう旅を続ける著者、岩田三八さんも会場にいていろいろな話を聞いた。もちろん、おいしいコーヒーもふるまっていただいた。
ひびうたは「目の前の一人から、居場所をつくる」ことを目的に福祉事業を展開し、地域の古民家を改装して生きにくさを抱えた人のためのスペース運営に取り組んでいる。今回のフェスのテーマは、「さみしさのむこうに」というもの。
初日の夜は、会場にキャンドルの火が灯され、「居場所」に集う方々の合作詩「さみしさのむこうに」の朗読会が開かれた。退屈して出ていく子ども、戻ってくる子ども、じっと聞き入る子どもの姿が場にやわらかなリズムを生み出している。
11月某日 ひびフェス2024の2日目の午後は、トークイベント「さみしさのむこうの詩人たち」に出演。拙著のエッセイ集『小さな声の島』(サウダージ・ブックス)で取り上げた詩人、永井宏、原民喜、塔和子、山尾三省との出遭いについて話す。イベントには、海の文芸誌『SLOW WAVE』(なみうちぎわパブリッシング)を発行する今枝孝之さんも来ていた。夕方は読書会も開催。2021年から、ひびうたの仲間と続けているこの読書会も第4シーズンに入り、これから約1年間、石牟礼道子『苦海浄土』(講談社文庫)を課題図書として読む。
11月某日 東京の二松学舎大学で「人文学とコミュニケーション」の授業の後、写真部の同人誌『模像誌』創刊号を編集部の学生たちから受け取った。この同人誌には、ぼくのインタビューが掲載されていて、大学生から編集者になるまでの歩み、写真家・中平卓馬氏をめぐる余談などを読むことができる。特別インタビューのコーナーには、俳人の堀本裕樹さんも登場。特集「「箱男」安部公房生誕100年記念」など。
11月某日 世界文学の読書会にオンラインで参加。課題図書はハン・ガン『別れを告げない』(斎藤真理子訳、白水社)。2024年のノーベル文学賞受賞を記念して、これから日本語に翻訳されたハン・ガンの小説を月に一冊ずつ読んでいく予定。
11月某日 『高麗博物館会報』第69号が届く。この会報にエッセイを寄稿したのだった。タイトルは、「姉のことばと妹のことばが静かに呼びかわす本 『ことばの杖 李良枝エッセイ集』を編集して」。作家・李良枝の妹である李栄さんもすばらしい文筆家であることを伝えたかった。『ことばの杖 』(新泉社)には、その李栄さんが姉の最後の日々を綴った回想記も収録している。
11月某日 ブックデザイナーの納谷衣美さんと電話。
11月某日 東京・神保町のK-BOOKフェスティバルへ。出店者も来場者も年々増えている印象。会場では、顔なじみの翻訳者や出版社のみなさんとおしゃべりした。韓日翻訳者の小山内園子さんの新著『〈弱さ〉から読み解く韓国文学』(NHK出版)を購入。フェス帰りの電車で読み始め、帰宅後も夜更かしして読了した。葉々社のブースではチョン・ジヘ『私的な書店』(原田里美訳)、キム・ウォニョンほか『日常の言葉たち』(牧野美加訳)を、またクオンのブースでは『大河小説『土地』をもっと楽しむ読本』(『土地』日本語版完訳プロジェクトチーム編)を買った。
11月某日 秋田・大曲で本とアロマのお店BAILEY BOOKを営む渋谷明子さんの本『OMAGARI 喫む店めぐり』(BAILEY BOOK)が届く。そのほかにも南陀楼綾繁さん『「本」とともに地域で生きる』(大正大学出版会)、矢萩多聞さん(文)と吉田亮人さん(写真)の写真絵本『はたらく製本所』『はたらく図書館』(創元社)、南椌椌さん『ソノヒトカヘラズ』(七月堂)などよい本がどっさり。
11月某日 二松学舎大学の授業で、香川・高松在住の写真家、宮脇慎太郎くんをゲストスピーカーとして招いて、講演をしてもらう。テーマは「〈辺境〉で写真を撮ること」。写真家としての歩みについて、四国という土地について。多くの学生が熱心な質問やコメントをしてくれた。
宮脇くんは、展示の設営のために東京へ来ていたのだった。東京藝術大学美術館の「芸術未来研究場展」に参加し、「東京藝術大学-香川大学 瀬戸内分校」のプロジェクト内で彼の作品が展示されている。日比野克彦さんほか複数のアーティストが参加するグループ展だ。
11月某日 明星大学で編集論の授業を行った後、渋谷の本屋SPBSへ。デザイナーで翻訳者の原田里美さん、ライターの石井千湖さんのトークイベント「隣の国の「詩」のはなしをしよう」に参加。韓国の詩人アン・ドヒョンさんから詩「練炭一つ」の朗読など音声データが届き、紹介してくれた。翻訳者のハン・ソンレさん、五十嵐真希さんのメッセージを掲載した資料も。いろいろな韓日の詩人の本が話題になり、SPBSでは原田さんが推薦する詩の雑誌『ニジュウサンジュウ』VOL.6を購入。この雑誌には、韓国の詩人オ・ウンの詩2編とインタビューが収録されている。
アン・ドヒョンさんの詩集『独り気高く寂しく』(ハン・ソンレ訳、オークラ出版)、評伝『詩人 白石』(五十嵐真希訳、新泉社)を読んでいる。
11月某日 『現代詩手帖』12月号が届く。「アンケート・今年の収穫」で紹介した詩の本は以下の5冊。
大江満雄編『詩集 いのちの芽』(木村哲也解説、岩波文庫)
コウコウテッほか『ミャンマー証言詩集1988¬¬-2021 いくら新芽を摘んでも春は止まらない』(四元康祐編訳、港の人)
阪本佳郎『シュテファン・バチウ』(コトニ社)
パク・ジュン『泣いたって変わることは何もないだろうけれど』(趙倫子訳、クオン)
石田諒『家の顚末』(思潮社)
11月某日 来年から連載をはじめようと、神奈川・大船の最寄りの書店ポルベニールブックストアで本を3冊購入。これで必要な資料が揃う。
サウダージ・ブックスから、旅と読書の随筆集として『読むことの風』と『小さな声の島』を刊行した。どちらも100ページほどの小さな本で、雑誌、リトルプレス、ウェブマガジンに依頼されて書いたエッセイを寄せ集め、書き下ろしを加えたもの。旅と読書の随筆集には3冊目の計画があり、今回は最初から書籍化を目指して書き継いでいく予定だ。『読むことの風』ではブラジルへの旅について、『小さな声の島』では台湾への旅について書いたが、次の本では韓国・済州島への旅をテーマに執筆しようと思う。関連する本の読書についても。済州島のことはいままで書けなかったが、機が熟した。連載をはじめよう、と言ってもどこに掲載するかは未定で、そもそも興味をもってくれる人がいるかも不明だが、ともかく書き始める。