しずみそうな しみずのまちの
かわぞいの うみのにおいが
みちみちに のこるいっかく
このあたり かこうにちかい
はずなのに うみがみえない
そのかわり むこうぎしへと
いくつかの はしがたがいに
ひとのめを いざなうように
のびていて そのこうけいは
それなりに ふぜいがあって
たちどまる ひともちらほら
いるようで さすがにみなと
まちらしい どこへゆくのか
しずみそうな しみずのまちの
かわぞいの ふるいいえいえ
たちならぶ とおりをすぎて
かわのきし はしのたもとに
たちどまり とおくみている
かわむこう ながめながめて
いるうちに はらりはらりと
めのまえに まいおりてくる
ものがある むかしえがいた
えにっきの かたいぺーじを
むりやりに めくりはじめる
ようなおと わすれたはずの
できごとが はらりはらりと
めのまえの はしのたもとに
ときをこえ よみがえりくる
しずみそうな しみずのまちの
かわぞいの ふるいいえいえ
たちならぶ とおりをすぎて
かわのきし はしのたもとに
たちどまり ふりかえりみる
みちのさき おもてどおりは
そのむかし ろめんでんしゃが
ちんちんと おとたてながら
げんきよく はしっていたし
あのころの でんしゃどおりは
ひとのでも おおいにあって
だいしょうの みせもそれぞれ
にぎやかで まちはかっきに
みちていた おもいかえせば
あのころの ざわめきのなか
おずおずと いちりょうきりの
しでんから ごえんはらって
おりてくる こどもがひとり
いたことも まんせいちょうと
いうえきで しでんをおりて
まっすぐに ひろいとおりを
いっぽんの はしにむかって
とぼとぼと あるきはじめる
しょうねんの そのあしどりは
みるからに おもおもしくて
しずみそうな しみずのまちの
かわしもの ふるいいえいえ
たちならぶ とおりをすぎて
かわのきし はしのたもとに
ひとしきり あゆみをとめて
かわむこう ながめながめて
ひとりきり わたりはじめる
いしばしは おもったよりも
つめたくて ゆびのつめたて
らんかんに こすりながらに
だらだらと あゆみすすめる
そのとちゅう いつものように
ここへきて おもいとどまる
はしのうえ くろくにごった
どぶがわの みずのながれは
どんよりと くらくよどんで
それよりも さらにおぐらき
うつしみが ゆらりゆらりと
みずのもに かげをおとして
たよりなく ゆれていたっけ
しろじろと かかるいしばし
さむざむと むこうぎしへと
のびていて わたりきるまで
くらぐらと はしのしたから
もうひとり のぞくじぶんが
いるようで わたりおえても
きがおもい さかのうえには
せんとうが ふたつながらに
じゅうじかを あたまにのせて
さっきから こっちをむいて
こわそうに つったっている
しかたなく てんをあおいで
にちようの あさのくうきを
おもいきり すってははいて
かねのねが いそげいそげと
よぶように なりだすまえに
きょうかいへ あゆみすすめる
さかのみち あんそくにちの
おつとめも まもるほかなく
せつせつと あさはしょくじも
とらないで いわれるままに
いえをでて ひとりきている
このさかの みちのとちゅうに
いりぐちの いしのかいだん
ひだりてに みえてきたとき
なぜかしら ほっとしたっけ
そろそろと いしのかいだん
のぼったら みどうのまえの
なかにわに すでにおおくの
ひとたちが あつまっていて
とくべつな みさのはじまり
まちながら はなしをしたり
わらったり だれもがみんな
にこやかな かおをしていた
とつぜんに からんころんと
きょうかいの かねがおおきく
ならされて しんじゃのひとも
そのこらも みどうのなかに
しずしずと あつまりだして
おもむろに しさいはみさの
はじまりを つげたのだった
とくべつな みさがはじまり
ろうろうと しさいのこえも
とくべつな ふっかつさいの
にちようび みどうのなかは
とくべつな いのりとうたに
みたされて いつしかみさは
おわりへと みちびかれつつ
しずけさに つつまれていた
きょうかいの かねがふたたび
ならされて しさいにつづき
つきびとが みどうのそとへ
あしばやに さってゆくのを
かわきりに とびらがひらき
いっせいに しんじゃのひとも
そのこらも みどうのそとへ
ぞろぞろと ながれるように
でていった だれもかれもが
なかにわの あかるいほうへ
つどいだし ふくらみかけた
ふじだなの はなのきのした
からふるな たまごのやまに
でくわした ぱすてるからーに
そめられた たまごのやまを
まんなかに おやもこどもも
みんなして よろこびのこえ
つつましく あげたのだった
やまもりに ざるにもられた
ゆでたまご ぱすてるからーに
そめられて おしえのにわに
はながさく ざるのなかから
ひとつずつ わけてもらって
からふるな そのゆでたまご
むきながら くちにはこべば
たのしくも きはずかしくも
あったっけ たまごのからは
ぽろぽろと むかれておちて
なかにわの じめんのうえに
あでやかな はなをさかせて
あたたかな はるのおとずれ
ほのぼのと ちりばめていた
ちちがまず かみをしんじて
ははがその あとをおいつつ
さんにんの こらをなかまに
ひきいれた くるしいことが
あったのか くやしいことが
あったのか それともほかに
なにごとか ゆるせぬことが
あったのか そのいきさつは
なぜかしら おさないこらに
しらされる ことはなかった
それなのに とおいいこくの
かみさまは どこにいたって
わたしらを いつもまもって
くださると ときふせられて
そのながい ながいおはなし
とうとうと きかされながら
ときどきは かみしばいまで
みせられて はなしのたねは
いつまでも つきることなく
つづくとも けれどいつでも
けつまつは おなじところに
なんどでも おちてゆくのに
しずみそうな しみずのまちの
かわぞいの ふるいいえいえ
たちならぶ とおりをすぎて
かわのきし はしのたもとに
たちどまり とおくみている
かわむこう おもいおこせば
きりすとの だいじなしとの
そのひとり せいよはねとは
もともとは がりらやという
みずうみの りょうしであった
あにはなを やこぶといって
おとうとの よはねとともに
がりらやで りょうをしていた
ひるがえり みればそもそも
わかいころ しみずのりょうし
でもあった ちちがよはねと
いうひとを しらないでいる
はずもなく おりにつけては
ふりかえる こともしばしば
あったかと おもうこのごろ
しずみそうな しみずのまちの
かわしもの うみのにおいが
みちみちに いろこくのこる
このあたり かこうにちかい
はずなのに うみがみえない
そのかわり むこうぎしへと
いくつかの はしがたがいに
ひとのめを いざなうように
のびていて そのこうけいは
それなりに ふぜいがあって
きしべには あゆみをとめて
このかわの けしきにみいる
ひとかげも あちらこちらに
みえはじめ おもいおもいに
りょうしまち らしいゆうべの
おとずれを まつかのように
おりてきている