それぞれの庭

北村周一

しき嶋の
やまとごゝろを
説くきみの
肩にむらがる
はなびら隠微

       穢されし
       サクラはなびら
       雨にぬれ
       排水口に
       屍人のごとし

それぞれの
庭の片隅
ふきだまり
目には見えねば
掃くひともなし

       雨あがり
       春の気配に
       みずたまり
       のぞき見ている
       くろしろのネコ

校庭の
つちにしみ入る
春の夜の
雨はやさしき
雨音もまた

       帽の子ら
       赤と白とに
       わかれいしが
      (もとの隊形に
       もどれとだれか)

団欒と
さくら並木と
夕ぐれが
一つになるとき
窓はほころぶ

       はじまりより
       つねに大地は
       震えおり 
       奢りの春の
       花のゆたけさ

うす紫
いろに染まりし
花韮の
土手ゆく猫は
そよかぜのごとし

       空間に
       双のつばさを
       休めんに
       線をもとめて
       ひらく脚くび

友ありて
その友のありて
百千の
土鳩つぶやく
なかを群れゆく

       ごく狭い
       範囲のなかで
       ごく浅く
       つき合うための
       スキルを磨く

だぶだぶの
制服に身を
固くして
ゆめみるごとし
一年男子

       あれもこれも
       詰め込み過ぎて
       なにとなく
       憂いがちなる
       四月の私

卓上に
てのひらのあと
ほんのりと
残しゆくなり
湯あがりのひと

       一ドルが
       三百六十
       円のままに
       停まりし時代が
       かおを出すとき

布団から
はみ出さぬように
ねむりたい
悪夢はひとの
二のうでが好き

       ブースター
       接種終えたる
       妻の腕に
       それは見事な
       モデルナ・アーム

脳内で
かんがえすぎると
両の眼が
紅くなるので
早起きが辛い

       この歳に
       なりてようよう
       腑に落ちたり
       やまいのすべての
       根源は眠り