一ダースの月

北村周一

奥湯河原温泉にあそぶアーティスト河原温氏がえがく一月

崇高のひかりあまねくカーテンの隙間に踊りはじめる二月

震災が何かを変えたと思うまで絵を描くのみにすごす三月

絵空ごと熱しやすくて校庭のすみに小暗きタネまく四月

段階的明暗技法は身につかず気づけば嚏止まらぬ五月

『洗濯バサミは攪拌行動を主張する』の絵を新しく描きたす六月

バブル弾けても肩幅ひろきW着こなし夜明けまではしゃぐ七月

花煉瓦はなれんがためにふれ合うを意味をもとめて病める八月

置き去りにされしメールが和蘭のひかりの粒を夢みる九月

遮断機をくぐりし友が鉄道の錆びのにおいに噎せる十月

有名になる前のきみに逢いたくて階段駆け上がる十一月

駅頭に聖少女らが客寄せのベルをリンリンと振る十二月