千年の雨

北村周一

千年の
雨の愉楽を
煽るごとく
地団太踏んで
はしゃぐ神神

風(ふう)の神
雷(らい)の神ある
これの世の
天地をむすぶ
千年の雨

絵空事に
あらずやさらに
万年の
雨をおもえと
雷鳴りはじむ

天竜は二俣川の橋ひとつ落ちたる夜の千年の雨

百年の
水の溜まりを
越境し
決壊を待つ
ダムの図あわれ

野分き跡
ふたまた川の
橋ひとつ
落ちたるさまを
カメラに残す

野分き跡
ハザードマップに
ふかぶかと
沈む家あり
浮かぶ家あり

千年に
一度の雨の
確率の
わかりにくさを
地図上に知る

県は県市は市なれども国は国ハザードマップに望みつなげば

オニゴロシ飲んで気配を消す努力
ハザードマップにゲンパツは見ず

ダムの底に
沈められたる
家々の
家電のかげの
ハザードマップ

河原べに
子らと遊びし
あの頃の
宮ケ瀬おもゆ
ダムの上より

みやがせの
湖底に沈みし
河原べを
ふとも思いつ
新緑の中

水枯れのダム湖の底にあらわれしかつての水郷なかつ渓谷

さつき闇
水位の下がりし
宮ケ瀬の
湖底に浮かぶ
家々の屋根

雨降れば海山川に水溢れすがたを変えて人を貶む

雨降れば海山川は忽ちにすがたを変えて水と戯る

巡る水に
洗われしのちの
青みどり 
溺れる月の
かげなお蒼し

震度6強という字が揺れのこる
奥能登はいま雨雲の下