敬老の日

北村周一

秋の日の
充実にして
みちばたに
拾いしへびの
抜け殻ひとつ
*あんなにも完璧な蛇の抜け殻は見たことがなかった・・・
さよさよと
ヘビのぬけがら
わが祖母が
財布の底に
仕舞いゆくまで
*敬老の日が近かったので祖母にあげたらとても喜んでくれた金運御利益願い事成就・・・
つつかれて
逃げゆくヘビを
梨畑に
追い込みにつつ
空井戸のあり
*それは黒くて長い蛇だったので棒で叩いて殺して空井戸に捨てた・・・
舐めごろの
ドロップひとつ
零れ落ち
田んぼの道に
ひらくコスモス
*ドロップ舐めたりガムを噛んだりしながら遊び呆けたしょっちゅう虫歯にもなった・・・
近隣の
騒音悩まし
音を消す
ために聴きいる
〈ミクロコスモス〉
*ご近所に木材屋があり早朝から夕方遅くまで騒音が絶えないその対抗策としてバルトークを聴いいていたのだったが・・・
挿げ替えし
おとこの首の
背後より
あらわれ来たる
政治力学
*賞味期限切れの安倍川餅というべきか・・・
つくり置き
存分にある
ゆたけさも
糠よろこびと
なりにけるかも
*ワクチン信仰目に余るよね抗原検査もしかり・・・
気晴らしに
西の空など
見上げおり
遠のくいろの
むらさきのはての
*中西夏之という画家がいた・・・
絵をえがく
さいしょの動機
つらつらと
思いみるとき
幼児にもどる
*三つ子の魂とはいうけれど侮り難し・・・
ものなべて
幼きころの
記憶へと
帰りゆくらし
絵ふでが誘う
*描くとは絵筆の先と画面とのたゆまざる接触に次ぐ接触の末のできごとなのかもしれず・・・
苦き唾
咽喉にのみ込み
一枚の
自画像はいま
仕上がりにけり
*若い頃よく自画像を描いたあまり楽しくはなかった・・・
目に映る
それより昏く
ながれいる
河口のみずよ
大川に見る
*友人の展覧会が福岡県にある大川市立清力美術館でまもなく開催されるそのパンフレットを見ながら・・・
菊の花
みずにあふれて
長月は
いちにち置いて
命日のあり
*義父と父と一日置いて命日がつづく・・・
舌の脇に
歯科衛生士さんの
おゆびありて
しばしコロナの
災禍忘るる
*かかりつけ歯科医に通う9割以上歯科衛生士が面倒を見てくれる・・・
願わくば
祈りの如き
しずけさに
この身横たえ
ねむりたかりき
*不眠症だから仕方がないのかもしれないが眠剤あまり飲みたくない・・・
年老いて
しまいし父母の
行く末を
案ずるごとも
セミがまだ啼く
*自分の親のことかそれとも自分たちのことなのかやや不明な一首・・・