朝が始まる

北村周一

天竜の
そらの高みを
ゆうゆうと
泳ぐヒコーキ
雲の純白

あさあけの
そらに向かって
わが吐息
放ちやるがに
小窓をひらく

窓を開け
山と川とが
織り成せる
大気をむねに
導きいたり

天竜の
山のみどりの
おおいなる
気を満たしめて
朝が始まる

三ケ日は
湖のほとりの
露天湯に
おうたわすれて
われをわするる

わさび海苔は
白いご飯の
ともにして
のせて塗して
ゑの具のごとし

油絵の
乾きを遅く
するための
メディウムはなぜか
存在しない

飛び降りる
人の真似して
歩道橋に
たむろしている
カラスの一家

部屋の中に
テントを張って
雨の日は
にぎやかなりぬ
夏休みかな

ラッキーな
一日だったと
思うまで
手間ヒマかけて
マスクを外す

ひさかたの
ひかりと影の
まどろみを
みず割りにして
飲み干す手順

スポンジュの
上下左右の
動きから
得るものありや
風呂洗うとき

夜の雨 
耳に音のみ
記せども
河のながれが
喜んでいる

駐車場にならぶクルマは
黒か白か灰色にして
新緑のなか

無彩色のクルマがずらり 
渋滞の列を抜けゆく
郵便バイク

恐ろしく明るい声でながれくる
政府広報 
頻度が増えた

この文言が目に入らぬかとでもいうように 
〈三分でマイクオフ〉
貧しい国だ

みずからの
席を保たんそれだけの
ために自国の民を見棄てる

ゲンパツを
止めてもらいし奥能登の
珠洲の民への恩返しがこれ

喜びの
森はなんでも知っている
カネの動きもヒトの動きも